神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
(沙雪さんが女の人だって解ってるのに、なんでかこう……ドキドキしちゃうんですけど!)
咲耶の緊張をほぐすための世辞か、天然の人たらしかは分からないが、沙雪のひとことにより咲耶の肩から余分な力が抜けた。
(とりあえず……笑っておこう)
そう思って目が合った者に微笑み返せば、ばつ悪そうに視線を外されるか、とまどったように目を伏せられるかのどちらかだった。
……どうやら、表立っての非難はなさそうだ。
そうして“市”を抜け、喧騒から遠ざかると、高い塀が続く小路に入った。
“市”に入ってからは、走るというより歩く速度に変わっていた栗毛の手綱を引き、沙雪が告げる。
「姫。この塀の向こうが、“商人司”権ノ介左衛門の屋敷でございます」
「……メチャクチャ広くないですか?」
咲耶の指摘に沙雪が苦笑いした。ようやく着いた門らしき手前、咲耶の下馬を手伝いながら言う。
「権ノ介殿は、“土倉”なのです。
──ご主人は居られるか? 虎太郎がハク様の“対の方”をお連れしたと、お伝え願いたい」
応対に出てきた下男らしき者に、沙雪がきびきびとした堅い口調で告げた。
ややしばらく待たされる間、沙雪に尋ねたところによると、“土倉”とは早い話が高利貸業者のことのようだ。
だが、ふたたび戻って来た下男に案内され屋敷内に通された咲耶の目に入ったのは、『倉』ではなく広い庭であった。
椿の花から始まって、咲耶のよく知らない手入れされた樹木があり、その向こうには立派な太鼓橋のかかる池が見えた。
(これ……ドラゴンだよね?)
東洋でなく西洋の龍を思わせる石像。咲耶は、和の景色のなかにポツンとある洋のちぐはぐな印象に首をかしげる。
他にも、所々に置かれた石像は和洋折衷といった統一感のないもので、咲耶は正直、権ノ介という“商人司”の趣味を疑ってしまう。
咲耶の緊張をほぐすための世辞か、天然の人たらしかは分からないが、沙雪のひとことにより咲耶の肩から余分な力が抜けた。
(とりあえず……笑っておこう)
そう思って目が合った者に微笑み返せば、ばつ悪そうに視線を外されるか、とまどったように目を伏せられるかのどちらかだった。
……どうやら、表立っての非難はなさそうだ。
そうして“市”を抜け、喧騒から遠ざかると、高い塀が続く小路に入った。
“市”に入ってからは、走るというより歩く速度に変わっていた栗毛の手綱を引き、沙雪が告げる。
「姫。この塀の向こうが、“商人司”権ノ介左衛門の屋敷でございます」
「……メチャクチャ広くないですか?」
咲耶の指摘に沙雪が苦笑いした。ようやく着いた門らしき手前、咲耶の下馬を手伝いながら言う。
「権ノ介殿は、“土倉”なのです。
──ご主人は居られるか? 虎太郎がハク様の“対の方”をお連れしたと、お伝え願いたい」
応対に出てきた下男らしき者に、沙雪がきびきびとした堅い口調で告げた。
ややしばらく待たされる間、沙雪に尋ねたところによると、“土倉”とは早い話が高利貸業者のことのようだ。
だが、ふたたび戻って来た下男に案内され屋敷内に通された咲耶の目に入ったのは、『倉』ではなく広い庭であった。
椿の花から始まって、咲耶のよく知らない手入れされた樹木があり、その向こうには立派な太鼓橋のかかる池が見えた。
(これ……ドラゴンだよね?)
東洋でなく西洋の龍を思わせる石像。咲耶は、和の景色のなかにポツンとある洋のちぐはぐな印象に首をかしげる。
他にも、所々に置かれた石像は和洋折衷といった統一感のないもので、咲耶は正直、権ノ介という“商人司”の趣味を疑ってしまう。