神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
──可能か不可能かといえば、おそらく『可能』なはずだ。
自分のもつ“神力”は、咲耶ですら想像を超えた先の『力』を備えているように感じるからだ。

息も絶え絶えだった、“神獣・白虎”を再生させたように。
ただひたすらに念じて想えば(・・・・・・)、この“神力(ちから)”の限りは咲耶にははかりしれないのだ。
なぜならそれは、和彰という“神獣”のもつ力と、同義であるのだから──。

(私は『白い神の獣の伴侶』で、代行者だけど)

『神』ではない。ただの人だ。
その、『只人』でしかない者が“神力”をもつからといって、蘇生(そせい)まで行ってしまうことは……何やら、とてつもなく恐ろしいことに思えた。
少なくとも咲耶にとってそれは、『死』という『自然の摂理』をくつがえす、まさに神をも畏れぬ()しき所業に感じられた。

二度も「できぬ」と告げた白い“花嫁”に対し、権ノ介を始めとする『民』の目は、徐々に剣呑(けんのん)さを増していった。
気づいた沙雪が何かを言いかけた、その時。

「おのおの方、勘違いなされますな」

清々しい若い男の声が、響いた。室内の嫌な雰囲気を振りはらうような、ひと声。

「咲耶様ができぬとおっしゃられたのには、訳がございます。そこにあるは『民ならざるモノ』。すなわち、民以外のモノにほどこしてやる“神力”がないというだけのこと。
しかしながら」

そこで言葉を切り、直垂(ひたたれ)姿の男が、腕に抱きかかえた幼い少女を見せつけるようにして、室内に入ってきた。

「私の腕にある()(わらわ)はまぎれもなく、この“下総ノ国”の民。
咲耶様の“神力(おちから)”を授かるに、ふさわしい存在にございます」

場にいた者たちの視線を充分に集めると、沙雪とよく似た面立ちでありながら正反対の性質をもつ男は、咲耶のほうへと近づいてきた。
(わか)……」と、苦々しくつぶやく沙雪の声は、咲耶の耳にだけ届いた。

「──咲耶様。何とぞ、御力を」

咲耶にだけ解るように、ふたつ名をもつ男──虎次郎(こじろう)は、目線でもって語る。俺の役に立て、と。
一瞬、ふざけるなと怒鳴りたい衝動に駆られた咲耶ではあったが、すぐに虎次郎が腕に抱く少女の異変に気づいた。
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