神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
頬が真っ赤に腫れあがり、呼吸が見るからに荒い。具合の悪さは一目瞭然だった。
(アホ男に目がいってて気づかなかったけど……)
あえぐ姿が痛々しく、咲耶は右手を伸ばして少女の頬に触れた。火がついたように熱いとは、このことだろう。
(可哀想に……。こんな状態で、こんな所に連れて来られるなんて)
一刻も早く、身体が楽になるように。
少女の身を襲う病が、癒えるように。
祈りながら優しく触れる咲耶の右手の下で、次第に静まる少女の呼吸。
大きくふくらんだ頬が自然な赤みを取り戻しながら、小さな可愛らしい頬へと変わっていく。
その様に、どよめきが起こった。信じられないものを見たという、正直すぎるほど正直な反応であった。
「これはこれは……!」
興奮を隠しきれないように権ノ介が小刻みにうなずき、ほうっ……と、息をつく。
次いで、咲耶に向かい両手を畳につけると、額ずいてみせた。
「当代の白い“花嫁”様の“神力”、しかと拝見いたしましてございます。いや、実に良き日となりました。
この場にいる者を代表し“商人司”権ノ介左衛門、サクヤ姫様のご慈悲に、深く……深く感謝いたしまする……!」
伏したまま張り上げた声音に反応するように、居並ぶ民人たちが、同様に咲耶に対し、ぬかずいた──。
咲耶をもてなそうと引き止める権ノ介に丁重に断りを入れ、咲耶たちは“商人司”の屋敷を去る準備をしていた。
「……若、なぜいらしたのですか」
栗毛と白い馬を連れてきた下男に心付けを渡した沙雪が、三人だけになったのを確認した直後、問いかけた。
「俺では対処しきれない件ができた。お前がなんとかしろ」
あっさりと沙雪に任を押しつけ虎次郎が言うと、男装いの女の顔がくもった。こめかみを押さえる。
「……またですか。対処できないのではなく、する気がおきないだけにございましょう? 本当に、仕方のない……」
「分かったのなら、さっさと戻れ。“国司”尊臣が長きに渡って不在では困る」
(アホ男に目がいってて気づかなかったけど……)
あえぐ姿が痛々しく、咲耶は右手を伸ばして少女の頬に触れた。火がついたように熱いとは、このことだろう。
(可哀想に……。こんな状態で、こんな所に連れて来られるなんて)
一刻も早く、身体が楽になるように。
少女の身を襲う病が、癒えるように。
祈りながら優しく触れる咲耶の右手の下で、次第に静まる少女の呼吸。
大きくふくらんだ頬が自然な赤みを取り戻しながら、小さな可愛らしい頬へと変わっていく。
その様に、どよめきが起こった。信じられないものを見たという、正直すぎるほど正直な反応であった。
「これはこれは……!」
興奮を隠しきれないように権ノ介が小刻みにうなずき、ほうっ……と、息をつく。
次いで、咲耶に向かい両手を畳につけると、額ずいてみせた。
「当代の白い“花嫁”様の“神力”、しかと拝見いたしましてございます。いや、実に良き日となりました。
この場にいる者を代表し“商人司”権ノ介左衛門、サクヤ姫様のご慈悲に、深く……深く感謝いたしまする……!」
伏したまま張り上げた声音に反応するように、居並ぶ民人たちが、同様に咲耶に対し、ぬかずいた──。
咲耶をもてなそうと引き止める権ノ介に丁重に断りを入れ、咲耶たちは“商人司”の屋敷を去る準備をしていた。
「……若、なぜいらしたのですか」
栗毛と白い馬を連れてきた下男に心付けを渡した沙雪が、三人だけになったのを確認した直後、問いかけた。
「俺では対処しきれない件ができた。お前がなんとかしろ」
あっさりと沙雪に任を押しつけ虎次郎が言うと、男装いの女の顔がくもった。こめかみを押さえる。
「……またですか。対処できないのではなく、する気がおきないだけにございましょう? 本当に、仕方のない……」
「分かったのなら、さっさと戻れ。“国司”尊臣が長きに渡って不在では困る」