神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
意味が解らず見上げる咲耶を、漆黒の前髪の向こうから、切れ長の眼が射ぬく。
淡々とした語調ながらも言外に含まれたものは、意味深長に感じられた。
「お前が安易に『再生』を行っていれば、赤虎の“花嫁”と、同じ過ちを犯すところだったからな」
「過ちって……」
「本人から聞いてないのか? ……まぁ、おのれの恥を、わざわざさらす馬鹿もなかろうがな。
あの女は、“神力”を手に入れた当初、誰かれ構わず子を授けまくったらしい。
飢饉の年と相まって、多くの『口減らし』や『間引き』を生んだそうだ」
眉をひそめる虎次郎の顔を、咲耶は呆然と見返した。──“花嫁”がもつ“神力”の弊害ともいえる事実。
「“神獣”の『力』は、絶大だ。だからこそユキの言っていた通り、使い手である“花嫁”の性質は、重要なのだろう。
慈悲も、度が過ぎれば罪悪に変わる、ということだ」
「……人の世の秩序を乱すことに、つながるってことですよね……」
じかに本人に聞いたわけではないが、美穂とて『悪気』があってした行いではないはずだ。
むしろ、人が子を授かるということは、本来は喜ばしいことであり非難されることではない。
けれども、時と場合──人が置かれた状況によって、それは『恵み』とはいえなくなるのかもしれない。
咲耶がいた世界でも、食糧や環境に人口比率がつり合わないため『恵まれない子』がいたように。
だが、沈んだ気分になる咲耶の耳に届いたのは「秩序?」という、虎次郎が鼻を鳴らす音だった。
「お前もユキと同類か。
……いいか? 俺が言っているのはそんなことじゃない。人にとっての都合の問題だ。
第一、秩序なんてものをもちだすのであれば、そもそも“国獣”という存在自体が、お前らのいう『秩序を乱すモノ』だろう」
言われた意味に気づき、咲耶は立ち上がる。自然、声が低くなった。
「……“国獣”は、必要ないってことですか……!」
淡々とした語調ながらも言外に含まれたものは、意味深長に感じられた。
「お前が安易に『再生』を行っていれば、赤虎の“花嫁”と、同じ過ちを犯すところだったからな」
「過ちって……」
「本人から聞いてないのか? ……まぁ、おのれの恥を、わざわざさらす馬鹿もなかろうがな。
あの女は、“神力”を手に入れた当初、誰かれ構わず子を授けまくったらしい。
飢饉の年と相まって、多くの『口減らし』や『間引き』を生んだそうだ」
眉をひそめる虎次郎の顔を、咲耶は呆然と見返した。──“花嫁”がもつ“神力”の弊害ともいえる事実。
「“神獣”の『力』は、絶大だ。だからこそユキの言っていた通り、使い手である“花嫁”の性質は、重要なのだろう。
慈悲も、度が過ぎれば罪悪に変わる、ということだ」
「……人の世の秩序を乱すことに、つながるってことですよね……」
じかに本人に聞いたわけではないが、美穂とて『悪気』があってした行いではないはずだ。
むしろ、人が子を授かるということは、本来は喜ばしいことであり非難されることではない。
けれども、時と場合──人が置かれた状況によって、それは『恵み』とはいえなくなるのかもしれない。
咲耶がいた世界でも、食糧や環境に人口比率がつり合わないため『恵まれない子』がいたように。
だが、沈んだ気分になる咲耶の耳に届いたのは「秩序?」という、虎次郎が鼻を鳴らす音だった。
「お前もユキと同類か。
……いいか? 俺が言っているのはそんなことじゃない。人にとっての都合の問題だ。
第一、秩序なんてものをもちだすのであれば、そもそも“国獣”という存在自体が、お前らのいう『秩序を乱すモノ』だろう」
言われた意味に気づき、咲耶は立ち上がる。自然、声が低くなった。
「……“国獣”は、必要ないってことですか……!」