神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
皮肉げな笑みに、犬朗が不愉快そうに息をつく。仰向いた赤虎毛の犬の眼が、閉じられた。

「……咲耶サマ。旦那を、呼んでくれ。
……あんたは、自分から進んでは……呼べない(・・・・)、みたいだからな。俺が……頼むよ」

開かれた隻眼が、咲耶をじっと見つめる。

俺のために(・・・・・)……旦那を呼んでくれ」

懇願の眼差しに、咲耶はついに折れた。

初めて、この場にいない自らの伴侶の名を、呼びかける──。





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