神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
和彰の口調が素っ気ないのは、いつも通りだ。
けれども咲耶には、二人のあいだに流れる空気が、冬の寒空の下、なおも冷え冷えとしていくのを感じた。
「あの……じゃ、和彰も来てくれたことだし、場所だけ教えてくれる?
その、庵にいるどなたかの、具合が悪いってことなんだよね?」
「──……えぇ」
なぜ自分が、この二人のあいだに挟まれて、気を遣わなければならないのか。
咲耶は、そんな理不尽な思いにかられながらも、
(まぁ、歳だけ言ったら、私が一番年長だろうしね)
と、自分が『大人として』振る舞うことを優先した。
虎次郎は咲耶に“つぼみ”の庵までの簡単な道筋を説明した。
そして、庵を預かる女性が流行り病に倒れ、“つぼみ”達が困っているだろうことも。
その間、和彰は黙っていた。
咲耶と虎次郎のやり取りを少し離れた位置で見つめ、現れたときの威圧感もなく、周囲の景色に溶け込むかのように。
「──では、よろしくお願いいたします」
虎次郎が咲耶に頭を下げる。和彰にも同様に立ち去る礼をとったが、当人は無反応だった。
場を取りつくろうように、咲耶は気になっていたことを虎次郎に尋ねる。
「さっきの……カラスのお化け、どうなっちゃったの?」
「……気になりますか?」
和彰の死角になる位置で、虎次郎がにやりと笑う。懐から、青銅色の鞘の小刀を取り出した。
「これは“神逐らいの剣”と呼ばれる聖なる剣の付属の刀です。その名の通り『神さえ追い払える』とされるもの。
付属とはいえ、先の程度の物ノ怪であれば、祓える力を持ち合わせております」
「それで……あのカラスは、成仏できたの?」
「そうですね、おそらくは」
結論を求めた咲耶に対する答えは、あいまいなものだった。不満な思いが顔にでたのだろう、虎次郎が苦笑いを浮かべる。
「私には、本当の意味では神々やあの世のことは、解りかねますので」
いま現在生きている自分には死後の世界は解らない、と。意外にも誠実な言葉に、咲耶は思わず虎次郎を見返す。
すると、声をひそめて虎次郎が告げた。仮面の下の、男の声で。
けれども咲耶には、二人のあいだに流れる空気が、冬の寒空の下、なおも冷え冷えとしていくのを感じた。
「あの……じゃ、和彰も来てくれたことだし、場所だけ教えてくれる?
その、庵にいるどなたかの、具合が悪いってことなんだよね?」
「──……えぇ」
なぜ自分が、この二人のあいだに挟まれて、気を遣わなければならないのか。
咲耶は、そんな理不尽な思いにかられながらも、
(まぁ、歳だけ言ったら、私が一番年長だろうしね)
と、自分が『大人として』振る舞うことを優先した。
虎次郎は咲耶に“つぼみ”の庵までの簡単な道筋を説明した。
そして、庵を預かる女性が流行り病に倒れ、“つぼみ”達が困っているだろうことも。
その間、和彰は黙っていた。
咲耶と虎次郎のやり取りを少し離れた位置で見つめ、現れたときの威圧感もなく、周囲の景色に溶け込むかのように。
「──では、よろしくお願いいたします」
虎次郎が咲耶に頭を下げる。和彰にも同様に立ち去る礼をとったが、当人は無反応だった。
場を取りつくろうように、咲耶は気になっていたことを虎次郎に尋ねる。
「さっきの……カラスのお化け、どうなっちゃったの?」
「……気になりますか?」
和彰の死角になる位置で、虎次郎がにやりと笑う。懐から、青銅色の鞘の小刀を取り出した。
「これは“神逐らいの剣”と呼ばれる聖なる剣の付属の刀です。その名の通り『神さえ追い払える』とされるもの。
付属とはいえ、先の程度の物ノ怪であれば、祓える力を持ち合わせております」
「それで……あのカラスは、成仏できたの?」
「そうですね、おそらくは」
結論を求めた咲耶に対する答えは、あいまいなものだった。不満な思いが顔にでたのだろう、虎次郎が苦笑いを浮かべる。
「私には、本当の意味では神々やあの世のことは、解りかねますので」
いま現在生きている自分には死後の世界は解らない、と。意外にも誠実な言葉に、咲耶は思わず虎次郎を見返す。
すると、声をひそめて虎次郎が告げた。仮面の下の、男の声で。