神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「──誰かいるのですか!」

()然とした声音と共に開く障子。次いで、うわずった少女の声がした。

「お、お帰りに気づかず、ぶしつけな振る舞いをしてしまい、もっ……申し訳ございませんっ……!」
「やっ……ごめっ……椿ちゃん! ってか、謝るのは私のほうなんだけどっ……!」

椿の悲鳴のような謝罪に、咲耶のあわてふためく声が重なる。
乱れた髪と胸もとを押さえる咲耶の背後で、和彰が冷静に言った。

「師が人は戸口を出入りするものだとおっしゃったのは、“主”の帰りを使用人に知らせるためなのだな」
「──っ……そんな分析、いらないからっ!」

八つ当たりぎみに和彰を怒鳴りつけ、咲耶は平伏して謝り続ける椿をなだめながら思った。

(もうっ、私ってば今日一日、ナニやってたんだろ……)

椿に日頃の労をねぎらう意味で用意した、心ばかりの『贈り物』。
沙雪の来訪で渡しそびれ、“つぼみ”の庵で我に返り、和彰の『力』をわざわざ借りて戻ってきたのに、この有様だ。

(私、本当にダメダメ女だーっ)

あまりの情けなさに泣きたい思いにかられる咲耶をよそに、夜は更けていくのであった。





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