神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
《二》汚らわしい手で、この御方に触れるな
咲耶が夢のなかで「これは夢だ」と気づき、目覚めようとするとき。
たいていの場合、「目覚めた」と思ったそこは、まだ夢のなかである。
(くっ……また夢のなかだった!)
地団駄を踏む思いで咲耶は見慣れた屋敷内を大股で歩く。
先ほどまではセキコ・茜の屋敷にいて、その“花嫁”である美穂から、
「ねー、暇ならこいつが作った双六やろうよ~」
などと、お手製の紙で出来たサイコロを手渡され、何度転がしても『零』が出るという……サイコロとして成立しない矛盾に気づいたと同時に『夢のなか』であることを自覚した。
(もうっ。なんなのよ、いったい……)
そして、次に「目覚めた」のは自らの屋敷で、キジトラの猫・転々をひざ上で寝かしつけながら、
「ミーコは甘えん坊だねぇ」
などと口にした自分自身に、「ん?」となったのだった。
(ミーコは私が高校生の時に死んじゃったのに……)
長毛種と短毛種。華奢な体躯と大柄な体躯。毛色も、まったく違う。
第一、
(転々は生きてるんだから!)
嫌な感じだ。
せっかく「これは夢だ」と、和彰から教わって目覚めようとしているのに、また先ほどの『悪夢』に近づきかけているような……。
(──このまま目を覚ませないなんてこと……ない、よね……?)
不吉な思いつきに、咲耶はぶるっと身を震わせる。その時、庭にある大きな樫の木が目に入った。
思いだされる、いつかの朝の出来事。
犬貴がいて犬朗がいて。転々も、たぬ吉もいた──。
咲耶の脳内で、ひとつの考えがひらめく。
(呼ぶのは、目覚めてからじゃなきゃダメなの?)
『ここ』で咲耶は和彰を呼び、そして和彰は呼び声に応えてくれた。
“神獣”である和彰と“眷属”である犬貴たち。置かれた立場も咲耶との関係性も、確かに違うかもしれないが……。
(呼んでみる価値は、あるのかもしれない)
たいていの場合、「目覚めた」と思ったそこは、まだ夢のなかである。
(くっ……また夢のなかだった!)
地団駄を踏む思いで咲耶は見慣れた屋敷内を大股で歩く。
先ほどまではセキコ・茜の屋敷にいて、その“花嫁”である美穂から、
「ねー、暇ならこいつが作った双六やろうよ~」
などと、お手製の紙で出来たサイコロを手渡され、何度転がしても『零』が出るという……サイコロとして成立しない矛盾に気づいたと同時に『夢のなか』であることを自覚した。
(もうっ。なんなのよ、いったい……)
そして、次に「目覚めた」のは自らの屋敷で、キジトラの猫・転々をひざ上で寝かしつけながら、
「ミーコは甘えん坊だねぇ」
などと口にした自分自身に、「ん?」となったのだった。
(ミーコは私が高校生の時に死んじゃったのに……)
長毛種と短毛種。華奢な体躯と大柄な体躯。毛色も、まったく違う。
第一、
(転々は生きてるんだから!)
嫌な感じだ。
せっかく「これは夢だ」と、和彰から教わって目覚めようとしているのに、また先ほどの『悪夢』に近づきかけているような……。
(──このまま目を覚ませないなんてこと……ない、よね……?)
不吉な思いつきに、咲耶はぶるっと身を震わせる。その時、庭にある大きな樫の木が目に入った。
思いだされる、いつかの朝の出来事。
犬貴がいて犬朗がいて。転々も、たぬ吉もいた──。
咲耶の脳内で、ひとつの考えがひらめく。
(呼ぶのは、目覚めてからじゃなきゃダメなの?)
『ここ』で咲耶は和彰を呼び、そして和彰は呼び声に応えてくれた。
“神獣”である和彰と“眷属”である犬貴たち。置かれた立場も咲耶との関係性も、確かに違うかもしれないが……。
(呼んでみる価値は、あるのかもしれない)