神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
赤虎毛の犬の前足が、血しぶきを受けた“主”の頬に触れ、憐れむ。

「……堪えられるもんじゃねぇよな、こんなこと……」
「──犬朗。咲耶様をお連れしろ。これ以上の長居はお身体に障る」
「手遅れだろうが、ナンボかマシってことか。……お前は?」

溜息まじりに言い切った犬朗の眼が、黒虎毛の犬に向けられる。感情を押し殺した声で、犬貴は応えた。

「後始末をしなければなるまい」
「……りょーかい」

不承不承の(てい)でうなずき返し、血染めの白い“花嫁”を抱えたまま、隻眼の虎毛犬が立ち上がる。
生真面目な虎毛犬を無言で見据えたのち、けぶる雨のなかへと消え去った。



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