神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
雨音だけが響く堂内で、おもむろに犬貴は片ひざをつき、こうべを垂れた。

「──御前を失礼いたします、コク様」
「咲耶を気にかけてやれ。白い“花嫁”は血の穢れに弱い。あるいは……」

何かを言いかけて、闘十郎は口を閉ざす。続けられた言葉は、取り消しのそれだった。

「いや、わしの杞憂(きゆう)かもしれん」

つぶやく声は独りごとのようにか細く、犬貴は一礼ののち、闘十郎の前から消え去った。



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