神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
自分を含めた、目の前の“眷属”全員の総意であるはず。そう犬貴が感じた、その時。

「あっ……」
「い、いまの!」
「──だよな? 犬貴!」

狭い板の間でじゃれあっていたモノらが、一斉にこちらを振り向いた。

「……お目覚めに、なられた」

独り言のような肯定に、勢いよく“社”を飛び出して行ったのは、キジトラ白の猫。次いで、タヌキ耳の少年。

「……お前は、行かねぇの?」

風脈に溶けこみながら、犬朗が見下ろしてくる。動きだせずにいる黒い甲斐犬の耳に落ちる、かすれた声音。

「待ってるぜ、俺らの大事な『咲耶様』が」

消え失せる姿が残す、その真意。

「……こんな時だけ、心のこもった『様付け』か」

黒虎毛の犬の口から、溜息がこぼれる──行かねば、なるまい。

待ち望んだ“主”の目覚めは、もう一方の“主”を闇から救いあげるための、幕開けとなるはずだから。





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