神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「私はこれまで、愁月様がなさることには必ず意味があり、綾乃様のご意思をくんだものであると考えておりました。

ハク様の“契りの儀”が、三度で打ち切られることに反対なされなかった時も。
“神現しの宴”などという、ハク様を(おとし)めるような行事を進言なされた時も。

……すべては、ハク様と貴女様に、結果として良い方へ(・・・・・・・・・)向かわせるための試練をお与えになったのだと、思えたからです。

しかしながら」

犬貴の表情が息苦しそうにゆがむ。口にしたくはないのに、口にしなければならない責務を担う者のように。

「この度の愁月様がなされたことは、あまりにも……っ……」

言葉に詰まる犬貴に、咲耶の内でひらめく、先日の百合子の去り際の台詞。

「私が以前、お前に忠告したことを覚えているか?」

──愁月には気をつけたほうがいい、と。

咲耶は先ほど感じた不安の正体に、ようやくたどり着く。
“神現しの宴”の時の和彰の姿が思い起こされた。……虚ろで、何も映さない瞳。

うめくように、犬貴が先を続けた。

「私には、愁月様がハク様を利用し、私怨(しえん)をはらしたとしか、思えないのです……」

それは、咲耶の予想を上回る、残酷な真相だった──。



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