神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「和彰が私の夢のなかに来てくれたように、私も和彰の所に行くから、待っててって」

言いながら咲耶は、大切な存在が託してくれた、自らを支える“眷属”たちを順に見つめる。

誠実で生真面目な黒い甲斐犬。
大らかで気配りに長けた赤い甲斐犬。
気弱そうに見えて芯のあるタヌキ耳の少年。
物怖じしない甘え上手なキジトラの猫。

(和彰が私にくれた、最上級の、贈り物──)

背筋を伸ばした咲耶は、彼らの“主”たる顔を取り戻す。
一度、大きくまばたきをして、自らに向けられる視線を充分に引き付けたのち、口を開いた。

「明日、愁月に会いに行くわ。あなた達にも、ついてきて欲しい。……和彰を、返してもらうために」

夜空にぼんやりとしたおぼろ月が浮かぶなか、“主命”を受けた“眷属”らが一斉にこうべを垂れ「仰せのままに」と声をそろえた。
そして、咲耶と和彰のために“眷属”となった犬貴が、付け加えて言った。

「咲耶様。我らは、貴女様の盾となり、剣となるモノ。そのために、ここに在るのです。どうぞ、ご存分に、お使いくださいませ」

古参の“眷属”の言葉に、居合わせたモノたちも強い眼差しを咲耶に向け、静かに同意する。

咲耶は、彼らの想いによって込み上げたものをこらえるため、唇をひき結ぶ。大きく息をついて、うなずいた──。


       *


複数の息遣いと、枯れ葉を踏む足音。短く鋭い叫び声が、すぐ側であがる。

「────!」

理解できぬ言語だ。……自分が『言語』だと判断できるのは、不思議な感覚であった。半身に流れる血のせいか。

周囲に近づく気配は先ほど()み付いた獲物同様、こちらに敵意を向けてくる。
ならば、()むためでなく、牙をむくのは当然のこと──もう半身が求める『生への渇望』のためだ。

二つの足を地に着け、成長途中の(けやき)のような獣らが、二三、近寄ってくる。

「──」
「──────!」
「──────────」

わずらわしい声のやり取りが何度か続いたのち、ぐいと首根っこをつかまれた。痛くはないが、不快で、懸命に肢体をくねらせる。
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