神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
言われてみると合点のいくことも多い。だとすれば、咲耶には気になることがあった。

(愁月から向けられた感情、あれは──)

「咲耶様、私は」

いつになく堅苦しい声音で犬貴が口を開く。

「愁月様にはやはり……何か、お考えがあるのではないかと思われるのです」

咲耶が驚いて目を向けると、わずかに目を伏せた。

「いえ、あのように愁月様に疑いを向けた私が言うのもおかしいのですが……」

咲耶は首を横に振る。驚いたのは、咲耶も同じことを考えていたからだ。

「私も、愁月には何か考えがあるような気がしてきてるの」

和彰と同化していた咲耶自身が感じたもの。それは、親から向けられる無償の愛によく似ていた。

「……参りましょう、咲耶様」

考えるより、この道の先へ。そこに答えがあることを、ふたり共に感じていた。

犬貴に導かれるまま歩き続け、やがて陽が傾きかけた頃。咲耶の耳と身体に地鳴りのような水音が伝わってきた。

「足元にお気をつけて。あちらが“神獣ノ里”への入り口にございます」

黒い甲斐犬の指が差すのは、大きな滝壺(たきつぼ)だった。



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