神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「あらヤダ。美穂ってば、第一声からお下品ねぇ。しかも、もう昼前よ? いつまで寝てるつもりだったの?」
「うっさいなー。そもそも、お前が寝かせてくれなかったんじゃんか!」
「なによぉ、そっちがムダに可愛いのがいけないんじゃない。そんなとこに突っ立ってないで、こっち来なさいよ、こっち!」
パンパンと、自分の側の畳を叩いて言う茜の視線の先にいるのは、栗色の髪を少年のように短くした十七八歳の少女だった。
赤生地の甚平を着ている。
声の可愛いらしさから、容姿もさぞかし……と、思ったが、咲耶の目に映ったのは、ごく普通の顔立ちだ。
「あ、美穂さん……だよね? 私は、咲耶。よろしくね」
「…………言っとくけど、あたしあんたより年上だかんね? 敬語くらい使いなさいよ?」
つかつかと咲耶の側までやって来て、座る。美穂の言葉に、咲耶はあたふたしてしまう。
「え? えっ? そうなの……ですか? すみません!」
「──な~んてね、冗談だよ、冗談。あ、実年齢があんたより上っつーのは、ホント。敬語は、むしろナシの方向で」
咲耶の反応を楽しむためだったようで、美穂は笑いながら咲耶の肩をパシッと叩いてきた。
「ゴメンねぇ。アタシの仔猫ちゃん、性格悪くってぇ」
と、茜が悪びれもせずに、言い添える。……どっちもどっちのようだ。
「あたしは、こっちに来てから二十年以上 経つんだけど、こいつと契ってからは歳とってないから。あ、外見が、ってコトだけどね」
「“花嫁”は、“契りの儀”を終えると“神籍”に入るから、肉体の成長が止まるのよ。だから咲耶も【殺されない限り】永遠の二十八歳ってワケ」
美穂の言葉を補足するように、茜がいたずらっぽく片目をつむる。
(永遠の二十八歳……コレ、喜ぶところなのかな?)
何やら複雑な心境にならなくもない。と同時に、咲耶は、茜の『殺されない限り』などという物騒な言いぐさを気にかけた。
「それって、老化はしないけど、ケガしたり病気になったりは、するってことですよね?」
果たして、茜は大きくうなずいた。
「そうよ。
ただし、厳密にいえば傷の治りは早いし、病にもかかりにくいの。自然治癒力も免疫力も、高くなるってことね。
つまり、アンタ達“花嫁”を確実に仕留めるには、心の臓をひと突きにするか、首を斬り落とすかしか、ないってこと」
「うっさいなー。そもそも、お前が寝かせてくれなかったんじゃんか!」
「なによぉ、そっちがムダに可愛いのがいけないんじゃない。そんなとこに突っ立ってないで、こっち来なさいよ、こっち!」
パンパンと、自分の側の畳を叩いて言う茜の視線の先にいるのは、栗色の髪を少年のように短くした十七八歳の少女だった。
赤生地の甚平を着ている。
声の可愛いらしさから、容姿もさぞかし……と、思ったが、咲耶の目に映ったのは、ごく普通の顔立ちだ。
「あ、美穂さん……だよね? 私は、咲耶。よろしくね」
「…………言っとくけど、あたしあんたより年上だかんね? 敬語くらい使いなさいよ?」
つかつかと咲耶の側までやって来て、座る。美穂の言葉に、咲耶はあたふたしてしまう。
「え? えっ? そうなの……ですか? すみません!」
「──な~んてね、冗談だよ、冗談。あ、実年齢があんたより上っつーのは、ホント。敬語は、むしろナシの方向で」
咲耶の反応を楽しむためだったようで、美穂は笑いながら咲耶の肩をパシッと叩いてきた。
「ゴメンねぇ。アタシの仔猫ちゃん、性格悪くってぇ」
と、茜が悪びれもせずに、言い添える。……どっちもどっちのようだ。
「あたしは、こっちに来てから二十年以上 経つんだけど、こいつと契ってからは歳とってないから。あ、外見が、ってコトだけどね」
「“花嫁”は、“契りの儀”を終えると“神籍”に入るから、肉体の成長が止まるのよ。だから咲耶も【殺されない限り】永遠の二十八歳ってワケ」
美穂の言葉を補足するように、茜がいたずらっぽく片目をつむる。
(永遠の二十八歳……コレ、喜ぶところなのかな?)
何やら複雑な心境にならなくもない。と同時に、咲耶は、茜の『殺されない限り』などという物騒な言いぐさを気にかけた。
「それって、老化はしないけど、ケガしたり病気になったりは、するってことですよね?」
果たして、茜は大きくうなずいた。
「そうよ。
ただし、厳密にいえば傷の治りは早いし、病にもかかりにくいの。自然治癒力も免疫力も、高くなるってことね。
つまり、アンタ達“花嫁”を確実に仕留めるには、心の臓をひと突きにするか、首を斬り落とすかしか、ないってこと」