神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
ゴクンと、生唾をのむ音がこちらまで聞こえそうな勢いの緊張した面持ち。
小太り“神官”の様子につられ、咲耶は身体をこわばらせた。

(まさか、和彰の“御珠”を飲みこんだことが、バレた?)

体内に入れてしまえば、易々と手出しはできまい。そう考えた上での結論であったが尊臣の気性を考慮しなかったのは事実だ。

(いきなり()りつけて取り出そうなんて、思わないわよね?)

自分の浅はかさに咲耶が後悔しかけた、その時。先ほどから交わされていた会話の正体を尊臣自身が明らかにした。

「……それは、“神獣の仔”を(はら)んでいる、ということか?」
「左様……左様に、ございます。でなければ、このような光を身内に宿すなど……」
「分かった。もういい。下がれ」

不遜(ふそん)に言い切る男を前に平伏したまま小太り“神官”が後ずさっていく。

「どう思う、愁月?」
「……咲耶とハクコが寝所を共にしたのは、尊臣様が初めて咲耶にお会いになられた頃。
はっきりとは申し上げられませんが、早ければあと三月(みつき)と半くらいで生まれるのではないかと」
「三月半、か……」

遠くを見るようにつぶやいたのち、尊臣の目が咲耶を捕えた。

「聞いた通りだ、咲耶。お前の身は、それまで保証してやることにしよう。
──ユキ。儀式の準備は終えたか?」
「はい」
「では、この女はお前に預ける。行くぞ、愁月」

沙雪の返答を待たずして立ち上がった男に、やや遅れて愁月が続こうとした。
金縛りにあったように身動きがとれなかった咲耶の片手が、伸びる。

「待ってください! 和彰の“神の器”は……」

なんとか届いた愁月の狩衣の袂をつかむと、衣の先の人物に、無情ともいえるしぐさで振り払われた。

「そなたには、(あずか)り知らぬこと。大人しく時が来るのを待つ(・・・・・・・・)ことだ」

とん、と、軽く胸もとを押される。
愁月のもつ『特殊な力』のせいか、咲耶の身は後ろにいた沙雪に受け止められるほどに飛ばされた。

「待って……!」

体勢をくずしながらも声を張りあげようとした咲耶であったが、混乱した頭では、言葉がそれ以上続かない。

(私のなかに“神獣の仔”がいるとか……ううん、それより、和彰の“神の器”はどうなっているの!?)
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