神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
舞い上がりかけた竜巻が、瞬時に消え去った。それを見届けた猪子の細い目が、さらに細められる。
「白いトラ神よ、よく考えてみることだ。そなたが慕う“神官”が犯した過ちを。
召喚条件を偽られたがために、本来あるべき場所から連れ去られた、憐れな“花嫁”のことを。
“花嫁”を慈しみ育てた者らから、この“陽ノ元”という異界へと奪い去った罪を、あがなうべき時が来たのだ」
それまでとは打って変わり、諭すように語る猪子に、こちらを見上げた和彰が身じろいだ。
迷い子のような頼りなげな眼差しに、咲耶は首を横に振ろうとしたが、恐ろしいほどの握力に阻まれる。
「咲耶、私は──」
伝えたい想いは涙となり、咲耶の頬に月光の雫の跡を残す。その真意を、白い“神獣”はどう受け取ったのか。
心のうちで呼び続けた真名の持ち主は、かすれる低い声音で応えた。
「……香火彦に……願い奉る。私の“花嫁”を、本来あるべき時空へと、戻してやって欲しい……」
──それは、咲耶の望む応えでは、なかった。
「白いトラ神よ、よく考えてみることだ。そなたが慕う“神官”が犯した過ちを。
召喚条件を偽られたがために、本来あるべき場所から連れ去られた、憐れな“花嫁”のことを。
“花嫁”を慈しみ育てた者らから、この“陽ノ元”という異界へと奪い去った罪を、あがなうべき時が来たのだ」
それまでとは打って変わり、諭すように語る猪子に、こちらを見上げた和彰が身じろいだ。
迷い子のような頼りなげな眼差しに、咲耶は首を横に振ろうとしたが、恐ろしいほどの握力に阻まれる。
「咲耶、私は──」
伝えたい想いは涙となり、咲耶の頬に月光の雫の跡を残す。その真意を、白い“神獣”はどう受け取ったのか。
心のうちで呼び続けた真名の持ち主は、かすれる低い声音で応えた。
「……香火彦に……願い奉る。私の“花嫁”を、本来あるべき時空へと、戻してやって欲しい……」
──それは、咲耶の望む応えでは、なかった。