神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
本心を告げることによって、どんな結果が待ち受けているのか。
恐ろしい気持ちと、それ以上になんとしても自分の想いを貫きたいことから、咲耶の声はかすれ、緊張から言葉につまってしまった。
「……それが、私の……願い、です」
ようやく言い終えた咲耶に対し、煌は鼻から息をもらした。
「……がっかりだのう……」
興がそがれたとでもいうように、幼き神は正した姿勢をくずし、傍らのシシ神の女にひざまくらを要求する。
「なんじの為してきた行いは、偽善か。周囲の者に、褒め称えられたいがためのものだったのか?」
ふくよかなシシ神の手を自らの頬に当て、“神獣”たちの長たる神が言い放つ。
「『美醜』に『咎』はないと、我は申した。が、なんじの心は醜いのう……己のことばかり」
まっすぐに咲耶の胸に突き刺さる、刃。煌という『幼き神』の言葉が真理を突いたことに、咲耶はうろたえる。
(私は、ただ……和彰や“眷属”の側に、いたかっただけ)
周囲に望まれるまま、流されてきたことは否めない。最初から咲耶のなかに、大それた意義などありはしないのだ。
「そもそも、下総の“神官”と先代の白いトラ神とが結びおうたのを、香火彦が見て見ぬ振りしてしまったのが、過ちの始まり。
なれば、正すべきは、なんじの“対”となる“神獣”のほうかの?」
寝転がった状態で、煌の指が手にした板をつっ……となでた。
退屈を持て余したといった様子で、その実、咲耶には聞き捨てならないことを話している。
「待ってください! 和彰は今回の件とは、なんの関係もないはずです!」
「……なくはなかろう? あの者の出生が、事の発端なのだから。
『正しい時の流れを創るには、排除も止むなし』と、我は考えるが」
「やめてください! そんな……物を扱うみたいに簡単に!」
パキリ、と、静かだが嫌な音が室内に響いた。煌が持つ木の板が、割れたのだ。
「簡単なことよ。我の手にかかれば、本来あるべき正しい道に戻すことなど」
甲高い声が、信じられないほどの温度の低さを伴って、咲耶の耳に届く。
それは、己に歯向かった『人』を、『神の創った盤上』から、爪の先で弾き飛ばすような物言い。
(私は、甘く見ていたんだ)
咲耶はぎゅっと両拳をにぎりしめる。自分の浅はかな考えを、思い知らされた。
(幼い神だって、猪子さんから聞いていたから)
御しやすい。そう思ったのは事実だ。
『神』といえども、子供。咲耶の思う通り、事を運べるのではないかと、淡い期待をいだいていた。
けれども──。
恐ろしい気持ちと、それ以上になんとしても自分の想いを貫きたいことから、咲耶の声はかすれ、緊張から言葉につまってしまった。
「……それが、私の……願い、です」
ようやく言い終えた咲耶に対し、煌は鼻から息をもらした。
「……がっかりだのう……」
興がそがれたとでもいうように、幼き神は正した姿勢をくずし、傍らのシシ神の女にひざまくらを要求する。
「なんじの為してきた行いは、偽善か。周囲の者に、褒め称えられたいがためのものだったのか?」
ふくよかなシシ神の手を自らの頬に当て、“神獣”たちの長たる神が言い放つ。
「『美醜』に『咎』はないと、我は申した。が、なんじの心は醜いのう……己のことばかり」
まっすぐに咲耶の胸に突き刺さる、刃。煌という『幼き神』の言葉が真理を突いたことに、咲耶はうろたえる。
(私は、ただ……和彰や“眷属”の側に、いたかっただけ)
周囲に望まれるまま、流されてきたことは否めない。最初から咲耶のなかに、大それた意義などありはしないのだ。
「そもそも、下総の“神官”と先代の白いトラ神とが結びおうたのを、香火彦が見て見ぬ振りしてしまったのが、過ちの始まり。
なれば、正すべきは、なんじの“対”となる“神獣”のほうかの?」
寝転がった状態で、煌の指が手にした板をつっ……となでた。
退屈を持て余したといった様子で、その実、咲耶には聞き捨てならないことを話している。
「待ってください! 和彰は今回の件とは、なんの関係もないはずです!」
「……なくはなかろう? あの者の出生が、事の発端なのだから。
『正しい時の流れを創るには、排除も止むなし』と、我は考えるが」
「やめてください! そんな……物を扱うみたいに簡単に!」
パキリ、と、静かだが嫌な音が室内に響いた。煌が持つ木の板が、割れたのだ。
「簡単なことよ。我の手にかかれば、本来あるべき正しい道に戻すことなど」
甲高い声が、信じられないほどの温度の低さを伴って、咲耶の耳に届く。
それは、己に歯向かった『人』を、『神の創った盤上』から、爪の先で弾き飛ばすような物言い。
(私は、甘く見ていたんだ)
咲耶はぎゅっと両拳をにぎりしめる。自分の浅はかな考えを、思い知らされた。
(幼い神だって、猪子さんから聞いていたから)
御しやすい。そう思ったのは事実だ。
『神』といえども、子供。咲耶の思う通り、事を運べるのではないかと、淡い期待をいだいていた。
けれども──。