神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
イタリアンレストランの貸し切り広間。友人は各テーブルを回りながらカップリングをしているようだ。

友人の耳打ち話の最中、ちらりと見やった岡田くんとやらは、確かに優しい顔立ちのアイドルのような外見だった。
咲耶と目が合うと、人懐っこい笑みを浮かべた。

「『まっちゃん』って呼ばれてるんだ? 松元だから?」
「そう。どこかのお笑い芸人みたいでしょ?」
「オレもまっちゃんって呼んでいい?」
「あー、うん。どうぞどうぞ」

チャラいというよりは能天気な気質なんだろうと、咲耶は相手に合わせてうなずいてみせる。
……実は、友人ならともかく、これから付き合う対象になるかもしれない男性に、アダ名で呼ばれるのは微妙に思えたのだが。

他愛もない話のあと、自然に途切れた会話で互いに隣の同性との話が始まり、咲耶はようやく息をついた。
ふいに視線を感じ、何気なくそちらに目を向ける。

(わっ……めっちゃ見られてる……)

咲耶のテーブルから離れた対角線上にいる、遠目にも分かる整った容貌(ようぼう)の男性。
咲耶より五歳くらいは年下に見えるが、場にそぐわない落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

「……っもう、撃ちーん。
何あのイケメン、ロボットか何か? 無表情無気力無感動! なら、合コンなんかくんなっつーの!
ねぇっ、そう思うでしょ?」
「えっ? ど、どうしたんですか?」

観察するような冷たい視線から逃れるように、咲耶は隣の席に戻ってきた女性に話を合わす。

「ほら、あそこの席のオトコ! ちょっと顔がいいからって、感じ悪いったら!
こういう席で気取ってたら、釣れるモンも釣れないのにさ!」
「……あ~、はは、なるほど。ですよねぇ……?」

自分より二つ三つ年上の(あか)抜け美人に調子を合わせながら、咲耶は、やっぱりこういう場は性に合わないなと、冷めた料理に手をつけながら思ったものだった。

結局、誘い合わせて一緒に来ていた同級生いわく、

「あ~あ。ただの食事会で終わっちゃったよ~」

のその場を、咲耶も収穫なしのまま、あとにしようとしていた時だった。

「松元さん」

低い声音に呼び止められ立ち止まると、すらりとした長身の男性が近づいてきた。

色素の薄い前髪の奥の瞳には、見覚えがある。なんの感情もうかがえない、熱のこもらない眼差し。
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