神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
(店長、どこか具合悪いのかな……)

内心気にかけつつも、咲耶は言われるがまま店裏に下がった。
ロッカールーム兼休憩室となっている小部屋に向かいながら、貴重品を入れた巾着袋から携帯電話を取り出す。

(……ウソでしょ……)

朝に受けたダメージを倍増する事態に直面する。
高校時代からの友人、それも、咲耶と同じ独身仲間。その彼女が結婚するという報告のメッセージが届いたのだ。

(なんで、今日に限って、次から次へと)

おめでとう、と、すぐに返信するべきだろう。けれども咲耶には、できなかった。

(私……心せまいな……)

小窓から射し込む秋の日が、まぶしい。思わず携帯電話を傍らに追いやって、弁当の包みをとく。

キジトラの猫をあしらったデザインの弁当箱の片隅には『ニャンと!愛ランド』という文字があった。


       ※


日本の猫と世界の猫、長毛種と短毛種、等々。
分類された猫たちと触れ合うスペースの他、部屋と部屋をつなぐ廊下には、猫雑学や家猫の歴史を小物や史書を交え紹介したショーケースが並ぶ。

(猫カフェみたいなのを想像してたけど……)

それよりも、かなり広い敷地と多種多様な猫の総数、猫グッズ中心の土産物店と食事処として隣接されたレストラン。
『ニャンと(びっくり)愛ランド』は、猫のテーマパークだった。

「……疲れた?」
「えっ? ううん、疲れて……なくはないけど、心地よい疲れだから」
「……そう」

衛生面の配慮からか、レストラン内に猫の姿はない。
その代わり、あちらこちらに猫をあしらったデザインの食器やインテリアが使われているのだが。

(似合わない……)

アメリカンショートヘアをモチーフにしただろう可愛いマグカップ。
を、無表情で口に運ぶ目の前の男の顔を盗み見ながら、咲耶はしみじみと思う。

こんな場所に誘うくらいだから、見かけによらず無類の猫好きかと思いきや、相変わらずの無愛想さかげんだ。
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