神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~

《五》美形兄弟──柊と貴、そして朗

『アニマル王国』は、咲耶の住む県の南側にあった。
ゾウ・キリン・レッサーパンダなど主に草食動物が多くいる動物園で、限られた動物にエサやりができることが売りの一つだ。

「動物好き?」
という例によって短い語のメールが届き、好きと返信し、誘われたのがこの場所だった。

「今度は、キリンの所に行っていいかな?」

『おやつバケツ』と称された、園内で販売されているエサを片手に咲耶が訊けば、無言で首を縦に振る霜月。
……毎度のことだが愛想の『あ』の字もない。

「えっと、動物臭いの苦手だったりする?」

以前、彼氏未満の存在に、行きたい所ある? と訊かれ動物園と答えた咲耶に、
「あー、オレちょっとケモノ臭とか駄目なんだよね」
と却下されたことがあり、咲耶は場繋ぎ的に尋ねてみたのだが。

「生き物は匂いがするものだから、気にならない」
と、あっさりと答えを返されてしまった。

(なんていうか……もう少し、どうにかならないものかなぁ)

こっそりと胸のうちで溜息をつく。

霜月のことは嫌いではない。
が、とりつくしまもない会話に、キャッチボールというより暴投し合っているような気が、しないでもなかった。

咲耶は、キリンにエサを与えながら、霜月からも語らせるように仕向けてみる。

「いつも私に付き合ってもらってるけど、逆に霜月くんの好きなものとかしたいこととか、ない?」

人は興味のあることには饒舌(じょうぜつ)になったりもする。そう思って話題を振った咲耶をじっと見つめ、
「好きなもの……」
と、それきり言葉が続かない霜月に、また空振りかとあきらめかけた時。

「松元さん」
「へ? わっ……」

一瞬、遠回しの告白かとドキッとしかけたが、霜月の片腕が咲耶の頭をかかえこんだと同時に、キリンの長い舌がべろんと横切ったのが分かった。

「餌、要求されてる」
「…………ゴメン。ありがと」
「気をつけて」

努めて冷静さをよそおい咲耶は霜月から離れたが、上がってしまった心拍数のせいで息苦しくなってしまう。
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