神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
霜月の態度と口調から、あまり仲が良くないのかと思ったが、男の兄弟とはこういうものなのかもしれないと思い直す。

「ふーん……」

片頬づえをつき、面白そうに咲耶を見る朗の眼は、左側が薄茶色をしていた。

(オッドアイの猫みたい……って!)

にやにやと笑う表情の意味を理解して、咲耶はあわてて霜月の手の下から自分の手を引き抜いた。
……若干、霜月に申し訳なさは感じるが、さすがに羞恥心のほうが上回る。

「これ、良い匂いがする。食い物? 食っていいの?」
「ど、どーぞ!」
「──お、しゅうくりむとかいう甘い菓子だよな。いっただきまー……ブフッ」

豪快にひとくちでペロリと食べ終えるかと思いきや、朗は口ではなく鼻でシュークリームを受け止めた。
……正確には、受け止めさせられたのだが。
咲耶の目の端に貴が映ったかと思うと、彼の拳が朗の後頭部を勢いよく直撃したのだ。

「……ってぇな。いきなり何すんだよ?」

鼻の頭に粉糖とカスタードクリームをつけたまま、朗はムッとしたように貴を見上げた。
『優しいお兄さん』のはずの人物は、腕を組んで鋭い眼光で朗を見下ろす。

「……貴様、なぜここにいる?」
(こ、こわい……)

麗容なだけに、怒りの表情に迫力が増す。咲耶は思わず身をすくめたが、当の本人はけろりとした顔で言い返した。

「ひっでぇ言いぐさだな。俺だって、さ……柊の彼女にあいさつくらいしたっていいだろ?」
「貴様がハ……柊の兄だなどと名乗ったりしたら、柊の汚点になる。存在しなくていい」
「はぁ? 意味わかんねぇ。一応、俺、お前の兄貴ってコトになってるはずだよなあ?」
「貴様と私が同じ血を分けた兄弟であるはずがなかろう。何かの間違いだ、忘れろ」
「──松元さん、冷めないうちに」

言い争う二人に目もくれず、貴が運んできたティーポットから紅茶を注いだ霜月が、咲耶の前にカップを置く。

「ありがとう。……大丈夫? お兄さんたち」

咲耶には解らない兄弟だけのやり取りに、小声で尋ねる。

「ああ。じゃれてるだけだから」
「そ、そうなんだ」
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