神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
関心なさそうに応える霜月に、咲耶は相づちをうちながらも内心で突っ込んだ。

(ってか、お兄さんたち犬扱い?)

「ケンカするほど仲が良いっていうものね」

フォローのつもりで咲耶が愛想笑いを浮かべたとたん、二人の口論がピタリと止んだ。
気まずそうに貴が咳払いをし、朗の隣に腰を下ろす。霜月が、ちらりと貴を見やった。

「終わったのか」
「……失礼しました」

兄弟というより主従のような雰囲気に咲耶がのまれていると、目の前にシュークリームが突き出された。

「ほい、あんたの分」

無造作につかみ、ニッと笑う顔は相変わらず粉糖とクリームにまみれていて、咲耶は思わず噴き出してしまう。

「……顔、拭いたほうが……」
「ああ、お気遣いなく。──こっちを向け、馬鹿者」

バッグからハンカチを取り出しかけた咲耶をやんわりと制し、貴が傍らの台布巾で乱暴に朗の顔をぬぐう。
またしても二人が言い合いを始めたが、その様は険悪なものではなく、むしろ微笑ましいものだった。

「お兄さんたち、仲良いね」
「……騒々しくて困る」

こっそり耳打ちした咲耶に、溜息まじりに応じる霜月。気苦労の絶えない弟といった反応に、咲耶は笑みをこぼす。
そんな咲耶をじっと見つめ、霜月が言った。あとで話がある、と。





それから咲耶は、貴と朗に家族のことや仕事のこと、さらには友人関係など色々と質問責めにあった。
その間も、二人の漫才のようなやり取りに笑いが絶えず、あっという間に時が過ぎた。

「図々しく遅い時間までお邪魔して、すみません」
「いいえ。こちらが願ってのことですので。……貴女のお話が聞けて、良かったです」

車を回してくるという霜月を玄関先で待ちながら、咲耶は貴たちに別れのあいさつをしていた。

「あの……また、伺ってもよろしいですか?」

自分でもめずらしく、するりと口をついた申し出。貴の顔が、一瞬にしてくもった。

「それは……」
「おう、いいぜ。手土産は要らねぇからな?」
「貴様、また勝手なことを──」
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