神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「え? 大丈夫? また、和彰と私、逢えなくなったりしない?」

子供の容姿に似合わぬ狡猾(こうかつ)さと、無邪気な残酷さを宿したヘビ神。
その恐ろしさを思いだし、咲耶は知らず知らずに片腕で自分を抱きしめる。

「煌とは神名をもって誓約を交わした。これを(たが)えることは叶わない。案ずるな」
「……本当に?」
「お前の願いを叶えるのが私の(ことわり)だ。昨日お前が願った言の葉は、私の胸にある。あとはその願いを叶えるだけだ」

咲耶の憂いを払拭するように、言葉を重ねる和彰。力強く告げる口調は、咲耶の不安定な心を捕らえる。

「……分かった。じゃ、帰ってきたら、連絡もらえる?」
「いや、それには及ばない」

言って、和彰が咲耶に話した内容は、咲耶の今後を左右するものだった。





「おはよう、お母さん」
「……あら、めずらしい」

いつもの起床時間より早い咲耶を、母親の里枝(りえ)は眉を上げて見返す。
自分用に淹れていたらしいインスタントコーヒーを、もう一つ用意した。

(変な感じ……)

ありがとうと受け取り、カップに口を付けながら、咲耶は自分の食事を準備する。
トーストに、レタスとベーコン、スクランブルエッグを挟む。咲耶の朝の定番食だ。

(すごく久しぶりな気もするし、日常のなんてことない朝な気もする)

記憶と感覚が交錯して、当たり前のことが当たり前でなくなり、奇妙に思えてしまう。

「あの、さ、お母さん」

ちびちびとトーストをかじりながら、咲耶は切りだした。

「私、お店解雇された」
「……どうして!?」
「あ、えっと……なんかやらかしたとかじゃなくて、お店側の都合で」
「都合って、そんな……!」

納得がいかないというように顔をしかめる里枝に、咲耶は店の現状を思いだしつつ説明する。

いまから思えば客入りが減ってきていたことや、この頃、店長の佐智子の様子がおかしかったことなどを。

「だから、すぐに再就職は厳しいかもだけど、次の職、できるだけ早く見つけるようにするから、心配しないで?」
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