神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「雑念は捨てろ。貴様とて、時空の狭間にのみこまれたくはあるまい?」
「ったり前だろ! 誰がお前と心中したいもんかよ?」

と、応じかけた犬朗だが、そんな場合ではない状況に、気色悪さを追いやり犬貴を見る。

「いいぜ。──始めてくれ」

覚悟を決めた眼差しを見交わし、黒虎毛の犬が口を開く。

「時を越え、異界へ渡る力よ。我が名は犬貴」

赤い虎毛犬が、言い放つ。

「我が名は犬朗」

犬の“眷属”らが声をそろえ、告げる。

「我らが想い、心に浮かべる者の元へ、この身と魂を導け!」

握りしめた金色の稲穂の先が、天に向かい、強烈な輝きを放つ。
弾け飛ぶ光の粒が、雨のように降り注いだ。

まぶしさに目を閉じながらも、犬朗は、自らが光の渦のなかに、溶けて吸い込まれてゆくのを感じた──。





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