神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
過去・現在・未来を支配する神ならば、白い“神獣”が回復したのち、この世界から“陽ノ元”に『帰った時間(とき)』に戻してやることも可能(・・・・・・・・・・)なはずだ。

自分たちと“主”が“陽ノ元”を()った時がそれほど違わないにも関わらず、一ヶ月以上の差があったのは、ヘビ神があえて『時間の調整』をしたからだろう。

「……旦那は、いつコッチに戻って来るんだ?」

同じ問いを繰り返したが、明らかに違う声色に気づいた犬貴が、背後から止めに入ろうとする。

「犬朗!」
「……よいのか、雷犬? なんじが短気を起こせば、そのしっぺ返しはすべて“主”たちに向かうことになるのだぞ?」

犬朗は、歯がみした。

(んなこたぁ、分かってるさ!)

憤りのまま煌につかみかかっても、猪子に攻撃を仕掛けたとき同様、自分の力など歯牙にもかけないだろう。
何より煌のいう通り、犬朗が牙を()くだけで“主”たちに災厄をもたらすことも、この神ならやりかねない。

「俺が知りたいのは、純粋に(・・・)旦那が戻って来る時だよ」

犬朗は幼い姿の神をにらむ代わりに背後の相棒を振り返り、にらみつける。
それを受けた犬貴はうなずき返し、静かな問いを放つ。

「カカ様。ハク様はお身体の調子を回復され次第、こちらにお戻りになると思ってよろしいのですね?」

言葉遣いは丁寧だが犬朗と同じかそれ以上に、白い“神獣”を思う気持ちが伝わる強い口調。

煌は、憎たらしいほどに無邪気な笑みを浮かべた。

「その通りじゃ。猪子が責任をもって、白い虎神の心身の回復具合を()ておるわ。
なに、“陽ノ元”とこちらの現在(いま)の時の流れを、同じにした(・・・・・)だけ。
むしろ白い虎神には、最初にこの世界でいうところの『ハンデ』をつけてやったのじゃがのう」

白い“花嫁”の記憶の封印解除に、ひと月以上もの期限を設定してやったのだとヘビ神は言う。
こういった取り決め事は、常ならば七日間と定められているのだが、という註釈(ちゅうしゃく)付だ。

(親切ごかしに言いやがって、このくそヘビが!)

こちらに不慣れな白い“神獣”が一ヶ月やそこいらで、どうやったら自分の存在自体を忘れている“花嫁”の記憶を、取り戻させることができるというのか。
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