神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
二葉の言葉はいちいち大仰だが、詳しく聞くと、“主”たちは『出逢い』を経たのち、三度ほど『でえと』なる親交を深め、『文のやり取り』もそれ以上に交わしていたようだ。

「古今東西、かけられた魔法・呪縛・封印の解除に一番効き目があるのは、想い人からの接吻(くちづけ)なのです!
だから、多少強引でも“花嫁”様の唇を奪ってしまえば良いのではないかと、わたしは思ったのですよ!」

と、二葉は持論も展開してくれ、なおかつ封印解除をしなければならない“主”にも、そのことを提言してくれたそうだ。

「でもですねっ、ハク様は『咲耶の嫌がることはしたくない』って、あのクールなお声で拒絶なさいました。
まぁ確かに筋は通ってますけど、虎神様なのに草食ですねって返しておきましたよ、えぇ。

ちなみに、ウチの小舅(こじゅうと)のような兄にも『犯罪行為をそそのかすな。民事訴訟になると金も時間もかかる。その上、慰謝料も取られるだろう』って、怒られまして。
まったく……大人って面倒くさいですね」

と、二葉は“主”たちの現状を嘆きながら話してくれた。

「というわけで、お次は『家族とのご対面』なのです!
犬朗さん、出番ですよ!
ハク様の『兄君』という大役が控えているのですから、弱気になってる場合ではないのです!!」

その身の内に“幻獣”──“主”と似てはいるが異なる存在──を宿す少女は、力づけるように握った犬朗の両手首を、さらにぶんぶんと振ってみせた。

(兄貴と違って悪いコじゃないんだよなぁ……)

思い込みは激しいが、自分たちのような『異形のモノ』にも、“主”たちが抱える『厄介事』にも、前向きに対処してくれようとする『良い子(・・・)』だ。

そう思って、犬朗は二葉の迫力に気圧(けお)されつつも、笑ってみせる。

「お、おう、そうか……俺が旦那の兄貴になるワケだな。んじゃ、いっちょブチかましてやるか!」
「はい! その意気なのです!」
「……とりあえず、その勢いよくぶんぶんと振っている立派なしっぽ(・・・・・・)を“花嫁”サマの前で出さないようにすることですね」

ぶちかますのではなく、ぶち壊す前に、と。薄ら笑いを浮かべた一葉が、いきなり会話に割り込んできた。
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