神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「夜食です」と言って差し出されたのは、細長く透明な、軽い器に入った緑色の液体。
犬朗たちの『生命力』摂取の足りない分を補うため用意される『人間の食い物』だった。
「あ~……ありがとな」

最初は何かアヤシイ物でも入っているのではと疑ったが、味はともかくコレを飲むと身体の調子は良くなった。

犬朗の礼を受け流すと、さっさといなくなった兄を尻目に、二葉が言った。

「では、特訓なのです、犬朗さん!!」


       *


その夜から犬朗の何かの拍子に出てしまう(・・・・・)赤虎毛の犬の尾を出さないための特訓が始まった。

日中は“主”のあとを追い、一葉に使役され、二葉との『特訓』は、主に夜間にやることとなった。

(おかげで、ちょっと気を抜くと(ねみ)いんだよな……)

「犬貴様、言葉遣いがカタイです。
例えば、犬朗さんのことは『()れ者』じゃなくて『馬鹿者』と言ったほうがいいですよ」
「なるほど。……この馬鹿者、目を覚ませ! といった感じか」
「……あのさ。俺を例題に使うの止めてくれねぇ?」

二葉の『家族とご対面計画』に、人の皮を被った(・・・・・・・)虎毛犬たちは必要不可欠で、彼らのほうもそれは望むところだった。

そして──誓約で定められた期限当日がやって来てしまった。

「白い虎神がこちらに来れるのは夜になりそうじゃ。刻限ぎりぎりとなるが、いかにする?」

間に合っても間に合わなくても自分の腹は痛まない。
そんな口調でヘビ神は犬の“眷属”らを見たが、犬朗たちの答えはひとつだった。

「ハク様がこちらにお越しになるのを待ちます」

犬貴の言葉に、犬朗も黙って同意した。

白い“神獣”が戻ってからでは遅いと二葉が『文を代筆』し、連絡を取ろうとした矢先。
白い“花嫁”のほうから「会いたい」との連絡が入った。





(なんか、良い匂いがする……)

まどろみのなか、白河兄妹のひそひそ話が聞こえてくる。

「……のまま寝かせ……面倒なことがおき……も限らないだ……」
「……も、……犬朗さ……可哀そう……!」

良い匂いに誘われ、犬朗はむくっと起き上がった。

「──あ"~、ねみぃ……」
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