神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
あまりのハイテンションと大仰な物言いにあ然としていると、床に平伏しかけた二葉の額を一葉が片手でぐいと持ち上げる。
そのまま、二葉の額を軽く叩いた。
「……昼飯の支度はできたのか?」
「う……、まだだけど?」
「なら、俺が引き継ぐ。
──白サマ、咲耶サマ。昼食の用意ができましたら声をお掛けいたしますので、どうぞ奥でおくつろぎくださいませ」
早口で告げた一葉は一礼して立ち去ろうとする。咲耶は、あわてて言った。
「あの、私に『様付け』は止めてください!」
「……承知いたしました。では、咲耶さんとお呼びします。二葉、来い」
「えーっ…………ハァイ……」
不満げな態度を見せつつも、兄の無言の威圧に妹は渋々あとを付いて行く。
案の定、犬貴が険しい形相で咲耶を見た。
「咲耶様、よろしいのですか?」
「うん。別に、敬って欲しいわけじゃないけど、バカにするみたいに『様』って付けられても気分悪いだけだし」
「そーそー。二葉チャンは良い子だけど、兄貴はちょっとクセ者だよな」
「……貴様が言えた義理か。破廉恥犬の分際で」
「はあ? なんで俺?」
「──咲耶」
いつもの調子で虎毛犬たちの言い合いが始まったところで、和彰に手を引かれた。
「私の部屋はこちらだ」
「えっ? あ……、じゃ、私ちょっと和彰と話があるから。ごめんね、犬貴、犬朗」
山鳩の鳴き声が聞こえるなか、咲耶と和彰の足音だけが不規則に廊下に響く。
曇りガラスを通過して射し込む陽の光は、やわらかくあたたかい。
広い屋敷を証明するかのように、和彰に手を引かれてたどり着いた部屋は、かなり奥まった位置にあった。
「なんか、変な感じだね」
“陽ノ元”での生活を思いだすような空間でありながら、薄型テレビやパソコンの置かれた室内に、おもむろに腰を下ろした咲耶は、そんな感想をもらす。
恋愛経験が豊富でない咲耶は、異性の部屋といえば弟の健の部屋くらいしか知らない。
相手が和彰と解っていても、なんだか急に落ち着かない気分になった。
「あ、これ私があげたやつ──」
そのまま、二葉の額を軽く叩いた。
「……昼飯の支度はできたのか?」
「う……、まだだけど?」
「なら、俺が引き継ぐ。
──白サマ、咲耶サマ。昼食の用意ができましたら声をお掛けいたしますので、どうぞ奥でおくつろぎくださいませ」
早口で告げた一葉は一礼して立ち去ろうとする。咲耶は、あわてて言った。
「あの、私に『様付け』は止めてください!」
「……承知いたしました。では、咲耶さんとお呼びします。二葉、来い」
「えーっ…………ハァイ……」
不満げな態度を見せつつも、兄の無言の威圧に妹は渋々あとを付いて行く。
案の定、犬貴が険しい形相で咲耶を見た。
「咲耶様、よろしいのですか?」
「うん。別に、敬って欲しいわけじゃないけど、バカにするみたいに『様』って付けられても気分悪いだけだし」
「そーそー。二葉チャンは良い子だけど、兄貴はちょっとクセ者だよな」
「……貴様が言えた義理か。破廉恥犬の分際で」
「はあ? なんで俺?」
「──咲耶」
いつもの調子で虎毛犬たちの言い合いが始まったところで、和彰に手を引かれた。
「私の部屋はこちらだ」
「えっ? あ……、じゃ、私ちょっと和彰と話があるから。ごめんね、犬貴、犬朗」
山鳩の鳴き声が聞こえるなか、咲耶と和彰の足音だけが不規則に廊下に響く。
曇りガラスを通過して射し込む陽の光は、やわらかくあたたかい。
広い屋敷を証明するかのように、和彰に手を引かれてたどり着いた部屋は、かなり奥まった位置にあった。
「なんか、変な感じだね」
“陽ノ元”での生活を思いだすような空間でありながら、薄型テレビやパソコンの置かれた室内に、おもむろに腰を下ろした咲耶は、そんな感想をもらす。
恋愛経験が豊富でない咲耶は、異性の部屋といえば弟の健の部屋くらいしか知らない。
相手が和彰と解っていても、なんだか急に落ち着かない気分になった。
「あ、これ私があげたやつ──」