神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
不必要にさ迷わせた視線の先にあった、ペルシャチンチラの猫キーホルダー。
思わず手を伸ばそうとした咲耶の身は、仰け反るような形で和彰の腕に捕らわれた。
「えっ……と……、和彰っ? 私、ははは話が、あるんだけどっ」
背中にあたる和彰の胸板と、耳もとに触れる和彰の息遣い。
うわずった咲耶の声は抵抗ではなく、必死に己の理性を呼び戻し言い聞かせる呪文に過ぎなかった。
「咲耶」
かすれる低い声音がささやく自分の名前に、どうしようもなく揺さぶられる心と身体。
「ダメ、和彰……人が」
「お前は人の姿の私よりも、獣の姿の私のほうが好きか?」
「…………はい?」
『艶事勘違い常習者』な自分に対するあきれと、問われた内容に対して拍子抜けし、咲耶はずるずると和彰の身体をすべり落ちた。
仰向いた咲耶に和彰の真剣な眼差しが注がれる。
「以前お前は、獣の姿の私も人の姿の私も好きだと言ってくれた。
だが、犬貴たちにお前が言ったのは、本来の姿のほうが良いという意味ではないのか?」
逆さまに咲耶の目に映る、美貌の青年。
失望をたたえた瞳が危惧するものの正体に、咲耶はようやく気がついた。
「和彰。いまの私の顔、“陽ノ元”にいた時と少し違うでしょ?」
「……唇とまぶたに色が付いて光ってることか?」
不可解そうに眉をひそめる和彰を見て、咲耶は思いきって問い返す。
「そう。……どっちの私が好き?」
実のところ、和彰に比べてもらうほど咲耶の顔は化粧映えしていないし、特にメイクに凝っているわけではない。
この質問が咲耶の意図通りになるかは、難しいところであったが。
「顔形が変わろうと、お前はお前だ。比べ得るものではない」
「うん。……だよね」
咲耶は和彰の腕のなかから起き上がり、その胸もとに手を伸ばす。
「私も、和彰が獣の姿でいても人の姿でいても、和彰は和彰だと思ってる。
たとえあなたが“神獣”としての本性を失っても、魂は一緒だと思うから」
「……そうか」
ホッとしたように目を伏せ、胸もとにある咲耶の手をにぎる和彰に、咲耶は続けて言った。
思わず手を伸ばそうとした咲耶の身は、仰け反るような形で和彰の腕に捕らわれた。
「えっ……と……、和彰っ? 私、ははは話が、あるんだけどっ」
背中にあたる和彰の胸板と、耳もとに触れる和彰の息遣い。
うわずった咲耶の声は抵抗ではなく、必死に己の理性を呼び戻し言い聞かせる呪文に過ぎなかった。
「咲耶」
かすれる低い声音がささやく自分の名前に、どうしようもなく揺さぶられる心と身体。
「ダメ、和彰……人が」
「お前は人の姿の私よりも、獣の姿の私のほうが好きか?」
「…………はい?」
『艶事勘違い常習者』な自分に対するあきれと、問われた内容に対して拍子抜けし、咲耶はずるずると和彰の身体をすべり落ちた。
仰向いた咲耶に和彰の真剣な眼差しが注がれる。
「以前お前は、獣の姿の私も人の姿の私も好きだと言ってくれた。
だが、犬貴たちにお前が言ったのは、本来の姿のほうが良いという意味ではないのか?」
逆さまに咲耶の目に映る、美貌の青年。
失望をたたえた瞳が危惧するものの正体に、咲耶はようやく気がついた。
「和彰。いまの私の顔、“陽ノ元”にいた時と少し違うでしょ?」
「……唇とまぶたに色が付いて光ってることか?」
不可解そうに眉をひそめる和彰を見て、咲耶は思いきって問い返す。
「そう。……どっちの私が好き?」
実のところ、和彰に比べてもらうほど咲耶の顔は化粧映えしていないし、特にメイクに凝っているわけではない。
この質問が咲耶の意図通りになるかは、難しいところであったが。
「顔形が変わろうと、お前はお前だ。比べ得るものではない」
「うん。……だよね」
咲耶は和彰の腕のなかから起き上がり、その胸もとに手を伸ばす。
「私も、和彰が獣の姿でいても人の姿でいても、和彰は和彰だと思ってる。
たとえあなたが“神獣”としての本性を失っても、魂は一緒だと思うから」
「……そうか」
ホッとしたように目を伏せ、胸もとにある咲耶の手をにぎる和彰に、咲耶は続けて言った。