神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~




黒檀(こくたん)の唐木座卓には、赤と黄と緑の三色の彩りが大皿に円を描き、置かれていた。
もう一方の大皿には、海老・イカ・いくら・赤身のマグロが大葉と共に海鮮の華を咲かせている。
そして、お(ひつ)に入った酢飯と正方形にカットされた海苔。

(……手巻き寿司パーティーだ)

このメンバーで? と思いながら面子を見回せば、犬朗がおおっ、と声をあげた。

「イイ匂いがすると思ったら『ふらあどちきん』だっ!」

二葉が運んできたトレイに載ったフライドチキンに、犬朗の尾が千切れそうに振れる。
強面の犬に似合わず可愛いらしい喜びように、咲耶は噴き出したが、直後に首をひねった。

「あれ? 前に犬朗たちは『食事』しないって、教えてくれなかったっけ?」

犬朗が“眷属”になりたての頃、聞いた話を思いだす。
確か、本来は人の『生気』を喰らうところを、和彰から『生命力』を分け与えてもらっているのだと。

「……あ~、ソレな。まぁ、俺らはその……ホントは『こっち』に来ちゃあなんなかったんだケドな」

ばつ悪そうに犬朗は言葉をにごしつつも、ちゃっかりフライドチキンに前足を伸ばしている。
が、お行儀悪いですよ、と、二葉に叩かれ阻まれてしまう。
それを尻目に、犬貴が堅い声で言い繋いだ。

「……我らは咲耶様とハク様を案じるあまりに、いろいろと『禁じ手』を使ってしまったのです」

犬貴の説明によれば、犬貴たちは咲耶が香火彦からもらった『金色の稲穂』を使い、この世界へとやって来たらしい。

逢いたい者を思い浮かべれば、時空を越えてたどり着くことのできる“神宝具(じんぽうぐ)” 。
それが、咲耶が猪子から手渡された物の正体だったのだ。

ただし、効果は一度きり。使用後はその都度、本来の持ち主であるヘビ神の手に戻ってしまう。つまり、『片道切符』というわけだ。

「じゃあ……“陽ノ元”に戻れないって知ってて、ふたり共こっちに来てくれたの?」

咲耶の言葉に、犬貴は気まずそうに目を伏せる。

「いえ、そのことは問題ではありません。
問題は、私欲で“主”様の授かり物をかすめ取ってしまったことなのです。
そして、本来はこの世界に存在しない我らが『糧』を得るとなれば、自ずと道は限られてしまう……」
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