神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
『ヘビ神』と咲耶たちの間に入り、“陽ノ元”とこの世界の調和を乱さないようにしていたのだ。
咲耶はそのことに、ようやく思いが至った。
「いろいろ……ご迷惑をおかけして、すみませんでした」
瞬間、一葉が舌打ちをした。
「“主”としてのお立場から出た言葉なら、労いとして受け取ります。
ですが」
傍らの灰皿にタバコを押しつけ、一葉はにらむように咲耶を見上げた。
「あなたは、“陽ノ元”の神々にいいように振り回され、自らの人生を捧げる“役割”を押しつけられた。
そこに……理不尽さや矛盾を、憤りを覚えないのですか……!」
逆らえぬ定めを前に、あらがうことなく受け入れている咲耶に、一葉はいらだっているようだった。
それは、彼個人がかかえたものと密接に関係し、だからこそ咲耶に攻撃的なのだろうと思われた。
「……私の家、貧乏なんですよ」
言葉にすると笑えるほど陳腐だが、事実なのだから仕方ない。
一葉が面食らったように咲耶を見返す。彼がした最初の説明の仕方をやり返している自分に気づき、咲耶はおかしくなってしまう。
「小さい頃から与えられたもののなかで、自分の満足が得られる方法を見つけるの、結構得意で。
白いご飯が美味しい、とか。青い空が綺麗、とか。茶トラの猫が可愛い、とか。
そういう……ささいなことで、幸せを感じてこられたんですよね」
咲耶は、背後に近づく者の気配に、愛しさから自然と笑みがこぼれる。
一葉もその姿を確認したのか、わずかに目を見開いたのち、毒気を抜かれたように小さく笑った。
「だから、自分の好きな人が自分を好きになってくれた『奇跡』は、絶対に手放したくないって思うんです」
振り返れば、一見無表情に見える美貌の青年が、心配そうに咲耶を見下ろしていた。
その指先が咲耶の手に伸びて、包みこむように触れる。
「咲耶」
多くは語らずとも咲耶の胸のうちを想い、憂いをかかえているのが分かる、声の響き。
咲耶は、そんな純真な“神獣”の“化身”を安心させるため、心からの笑みで応じた。
「大丈夫だよ。ありがとう、和彰」
咲耶はそのことに、ようやく思いが至った。
「いろいろ……ご迷惑をおかけして、すみませんでした」
瞬間、一葉が舌打ちをした。
「“主”としてのお立場から出た言葉なら、労いとして受け取ります。
ですが」
傍らの灰皿にタバコを押しつけ、一葉はにらむように咲耶を見上げた。
「あなたは、“陽ノ元”の神々にいいように振り回され、自らの人生を捧げる“役割”を押しつけられた。
そこに……理不尽さや矛盾を、憤りを覚えないのですか……!」
逆らえぬ定めを前に、あらがうことなく受け入れている咲耶に、一葉はいらだっているようだった。
それは、彼個人がかかえたものと密接に関係し、だからこそ咲耶に攻撃的なのだろうと思われた。
「……私の家、貧乏なんですよ」
言葉にすると笑えるほど陳腐だが、事実なのだから仕方ない。
一葉が面食らったように咲耶を見返す。彼がした最初の説明の仕方をやり返している自分に気づき、咲耶はおかしくなってしまう。
「小さい頃から与えられたもののなかで、自分の満足が得られる方法を見つけるの、結構得意で。
白いご飯が美味しい、とか。青い空が綺麗、とか。茶トラの猫が可愛い、とか。
そういう……ささいなことで、幸せを感じてこられたんですよね」
咲耶は、背後に近づく者の気配に、愛しさから自然と笑みがこぼれる。
一葉もその姿を確認したのか、わずかに目を見開いたのち、毒気を抜かれたように小さく笑った。
「だから、自分の好きな人が自分を好きになってくれた『奇跡』は、絶対に手放したくないって思うんです」
振り返れば、一見無表情に見える美貌の青年が、心配そうに咲耶を見下ろしていた。
その指先が咲耶の手に伸びて、包みこむように触れる。
「咲耶」
多くは語らずとも咲耶の胸のうちを想い、憂いをかかえているのが分かる、声の響き。
咲耶は、そんな純真な“神獣”の“化身”を安心させるため、心からの笑みで応じた。
「大丈夫だよ。ありがとう、和彰」