神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「姉ちゃん。ウチはご覧の通りの貧乏所帯で、預貯金も常に三ケタ台ですって、ちゃんと説明したか?」
「ちょっと! あいさつ抜きでいきなり何!」
「だってさ、こんな美形で育ちも良さそうな人が、姉ちゃんと付き合うっておかしくね? 結婚サギじゃなきゃ、そーとーシュミわり──」

言いかけた健の口を片手でふさぎ、咲耶は和彰を振り返った。

「弟の健。バカだけど、少しは役に立つこともあるの」
「……っ、ば……バカは事実だけど、姉ちゃん、ひでー」
「どっちがよ?」

咲耶の片手を振り切り、にらみつける姉の視線をかいくぐって、健は和彰に向き直った。

「霜月さん、ですよね? 姉がいつもお世話になってます、弟の健です。以後よろしくお願いします」

早口で言って頭を下げたのち、ちらりと和彰を上目遣いで見る。

「あの……失礼ですけど霜月さん、視力かなり悪かったりします?」
「あんたねぇ!」
「うっそウソ! 冗談だって。
姉ちゃんの好きな『シャル・エト』のロールケーキ、買ってきてやったから、それでいいだろー?」

肩口を軽く叩きつけた咲耶に対し、健は身を引きながら笑ってみせる。
咲耶は、目をしばたたかせた。

「は? ケチんぼのあんたが? めずらしい」
「だって今日、姉ちゃん誕生日じゃん」

──咲耶は、いまのいままで、すっかりそのことを忘れていたのだった。



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