神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「ただ、結婚となるとねぇ……。
ウチはこんなだし、霜月さんの方の家格っていうの? 釣り合わないって、あちらのご両親とかに思われて、あんたが嫌な思いするんじゃないかっていう心配は、あるわよ?」
里枝が言うことは決して卑下ではない。
実際問題として、結婚するとなれば家同士の繋がりができるわけで、そこに比重を置くことは自然なことだった。
(和彰の仕事を訊かれて『神職』だって答えちゃったからなぁ……)
必然、古い家柄だとでも思ったのだろう。
咲耶としては、あまり嘘はつきたくなくて、ある意味間違ってない『答え』を返したのだが。
「えっとね……和彰に両親はいなくて、お兄さんが二人いて。実は私、昨日会ってて……その、大歓迎された」
「……そうなの?」
「うん。あと、弟が一人と妹が二人いるんだけど、みんな仲良しなんだ」
“陽ノ元”での実情を思えば、両親らしき存在はいる。
そして、犬貴と犬朗が『兄』ならば、たぬ吉や転々、椿は『弟妹』となるだろう。
そう思いながら話した咲耶に、里枝は意外だといわんばかりに眉を上げた。
「あら、そう。じゃあ、そうは見えないけど苦労してるのね?」
「苦労……してるのは、むしろお兄さんのほうかな?」
咲耶の脳裏に犬貴の顔が浮かぶ。間違いないなく、苦労人……いや、苦労犬は彼のはず。
「ああ……そうよね、あんたと一緒よね」
長男長女の悲哀を里枝は思ったようで、咲耶の考えとは微妙にすれ違っていくが、そこは致し方ない。
「それでね、お母さん」
会話が途切れ、ロールケーキを口に運ぶことに専念しだした里枝に、咲耶は一瞬、“陽ノ元”に行くことを告げかけた。だが──。
(ここにいる『私のお母さん』は、私がこの世界を去れば居なくなってしまうんだよね……)
それならば、訳の分からない“陽ノ元”だの“神獣の花嫁”だのと困らせるのは、本当に意味がないことだ。
咲耶が告げなければならないことは、別にある。
「だから私、いま、すごく幸せなの」
唐突すぎる宣言に、里枝はぽかんと咲耶を見返した。
直後、ぷっ……と噴きだしたかと思うと、肩を揺らして笑いだす。
ウチはこんなだし、霜月さんの方の家格っていうの? 釣り合わないって、あちらのご両親とかに思われて、あんたが嫌な思いするんじゃないかっていう心配は、あるわよ?」
里枝が言うことは決して卑下ではない。
実際問題として、結婚するとなれば家同士の繋がりができるわけで、そこに比重を置くことは自然なことだった。
(和彰の仕事を訊かれて『神職』だって答えちゃったからなぁ……)
必然、古い家柄だとでも思ったのだろう。
咲耶としては、あまり嘘はつきたくなくて、ある意味間違ってない『答え』を返したのだが。
「えっとね……和彰に両親はいなくて、お兄さんが二人いて。実は私、昨日会ってて……その、大歓迎された」
「……そうなの?」
「うん。あと、弟が一人と妹が二人いるんだけど、みんな仲良しなんだ」
“陽ノ元”での実情を思えば、両親らしき存在はいる。
そして、犬貴と犬朗が『兄』ならば、たぬ吉や転々、椿は『弟妹』となるだろう。
そう思いながら話した咲耶に、里枝は意外だといわんばかりに眉を上げた。
「あら、そう。じゃあ、そうは見えないけど苦労してるのね?」
「苦労……してるのは、むしろお兄さんのほうかな?」
咲耶の脳裏に犬貴の顔が浮かぶ。間違いないなく、苦労人……いや、苦労犬は彼のはず。
「ああ……そうよね、あんたと一緒よね」
長男長女の悲哀を里枝は思ったようで、咲耶の考えとは微妙にすれ違っていくが、そこは致し方ない。
「それでね、お母さん」
会話が途切れ、ロールケーキを口に運ぶことに専念しだした里枝に、咲耶は一瞬、“陽ノ元”に行くことを告げかけた。だが──。
(ここにいる『私のお母さん』は、私がこの世界を去れば居なくなってしまうんだよね……)
それならば、訳の分からない“陽ノ元”だの“神獣の花嫁”だのと困らせるのは、本当に意味がないことだ。
咲耶が告げなければならないことは、別にある。
「だから私、いま、すごく幸せなの」
唐突すぎる宣言に、里枝はぽかんと咲耶を見返した。
直後、ぷっ……と噴きだしたかと思うと、肩を揺らして笑いだす。