神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
声にならない叫びが、咲耶ののどを鳴らす。思わず傍らの和彰に、ぎゅっとしがみついた。

「大丈夫だ、咲耶。これが、(こう)本来の姿なのだ」

“神獣”である和彰の本性が、白い虎であるのと同じように──。

祠のなかから現れたのは、鎌首をもたげた大きな蛇。
鱗は光沢のある白を基調としているが、角度によっては薄青くも薄赤くも見える。

咲耶の手のひらくらいはありそうな眼は、赤い虹彩に黒い縦長の瞳孔をしていて、咲耶の記憶のなかの幼きヘビ神を連想させた。

『松元咲耶』

しかし、直接的に脳に伝わる()は背筋を()うようで、幼き神のものとは到底思えず、咲耶の身をおぞけさせた。

湿った空気が、ゆるやかに祠から流れてくる。それに合わせて巨大なヘビが、咲耶たちの前に顕現した。

『時の循環を司どる神として、また、“神獣の里”の長として、汝を“陽ノ元”へと正式に迎え入れよう。
ついては、この瞬間』

ヘビ神の()に呼応するように、辺りの樹木が一斉にざわめき、まるで暴風域にでも入ったかのように、大きくしなった。

『汝の存在した事実をこの世界から抹消し、時間と空間と実在を、我が名において再構成させることを誓約する』

木の葉が乱れ飛び、小石が宙を舞い上がる。
咲耶たちのいる場所を囲う形で嵐が起こっていた。

『いざ、我が元へ──』

あやしげな光を放ち、大蛇がその身でもって螺旋(らせん)を描く。
尾に近づくにつれ狭く渦を巻いた内側は、宇宙を思わす闇と光が明滅している。

大いなる導きと神秘の御力により、咲耶たちは在るべき世界へと戻されたのであった──。


       *


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