神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
(難しく考えるからややこしくなるんだよね)

咲耶は大きく息をついた。

人類の長い歴史のなか、ずっと受け継がれた命題のひとつ。
咲耶の答えは単純明快だった。

「和彰」

青年の姿をした白い“神獣”。
初めて会った時からすれば成長しているはずだが、それでもまだ幼さの残る心。
その愛すべき(こころ)ごとつつみこむように、咲耶は自分より大きな身体を抱きしめる。

「咲耶……?」
「私が自分からこうして抱きしめたいのは、和彰だけなんだからね?」

そのまま仰向いて少し怒った口調で告げれば、美貌の青年の表情が、驚きから微笑みに変わる。

「咲耶……私は、駄目なのだと思っていた」

咲耶の背に和彰の腕が回されて、強く抱きしめ返される。

「ダメって、そんな訳ないじゃない。私は和彰が好きなんだから。ちょっとくらいヤキモチ妬かれたって──」
「やきもち?」

言いかけた咲耶に、和彰の言葉が重なった。

「なぜ餅の話が出てくるのだ?
私は、お前が以前、他に人や(あやかし)がいる場所で『仲良くする』のは駄目だと言ったことを話している」
「へ?」

それこそ何の話だと咲耶の頭が混乱しかけた瞬間、咲耶が忘れていた『事実』を思いだす声がかかった。

「も~、遅いと思ったらこんなトコでちちくり合ってたの?
そりゃアンタたちの屋敷なんだから好きにしたらいいけど、客人放っておくのはマズいんじゃない?」

(わわっ!)

あわてて和彰から遠のこうとした咲耶に、一瞬ゆるんだ腕がすかさず力を込めたのが解った。
逃がさないといわんばかりに、咲耶の半身が抱き寄せられる。

「和彰、ちょっと」
「駄目ではないと今お前が言った」
「いやいや、その話じゃなくて」
「いつまで待たせる気~? 別に引っ付いてて構わないから早く戻ってらっしゃいよ。
第一、アンタらがソコを占領してたら、虎毛犬のコたちが通れないでしょー? ちょっとは気ぃ遣ってあげなさい?」
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