神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
後日談【其ノ弐】
宴もよう〜おまけ〜
*
「これ……すそ短くないかな?」
「……なにソレ、あたしの足が短いって言いたいの?」
「や、美穂さんと私じゃ身長差があるから、そもそもそういうことじゃなくて……」
「いいよね~、ソッチは無駄に胸がデカくて。あたしなんか、このペッタンコな胸のせいで、あいつに最初、男と間違われたんだよ?」
「……そ、そうなの?」
咲耶は、いつも穿いている筒袴よりも大幅に丈が短い筒袴のすそから出ている、自らの太ももをなでつけながら相づちをうった。
……何気に失礼な発言をしている美穂に、突っ込む余裕がいまの咲耶にはない。
傍らで“花嫁”らのやり取りを見守っていた“花子”の少女が、咲耶に姿見を向ける。
「姫さま。よくお似合いですわ。
……少し、丈が短いのが気になりますけど」
「だよね? やっぱりちょっと……」
変じゃない? という言葉を、咲耶はかろうじてのみこむ。
なぜならば、咲耶がいま身につけたこの着物は、茜と美穂からの贈り物だからだ。
「ちょっと何? あたしとお揃いなのが、そんなにイヤなの?」
「えっと、そうじゃなくて、足が……」
普段着として慣れた水干とは違う、変則的な振袖と筒袴。
咲耶が愛用している掛水干同様、本来の様式ではなく、美穂が着やすいよう彼女の“花子”である菊が仕立てたであろうことは、容易に想像がつく。
──そもそもの事の起こりは宴に戻った咲耶が、
「美穂さん、今日の格好可愛いね」
と、深く考えずに言ったのに対し、
「あ、忘れてた。あんたの分もちゃんとあるよ~。猿助、アレ!」
と、自らの“眷属”を呼びつけ美穂が咲耶に手渡してきた物に、宴の席を抜け、こうして自室で着替えるに至ったのだった。
(そりゃ、美穂さんは足が細いからいいけどさ)
ひざ下ならともかく、ひざ上を堂々と人前にさらせるほど咲耶の足は細くはなかった。
「ほら、つべこべ言ってないで行くよ」
渋る咲耶の手を無理やり引っ張り、美穂は宴の席へとずんずんと歩いて行く。
月光はまっすぐに宴の庭に落ちて、場にいるモノたちをほの明るく照らしていた。