神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
“神獣”の“化身”である美貌のふたりの青年も、人の世では異形とされる“眷属”らも。皆、思い思いに過ごしている。

「はーい、注目ぅ! 今夜の主役、登~場~っ。はい、拍手拍手!」

そこへ、赤い“花嫁”が大きな声で告げると、いやが上にも場の視線が咲耶のほうへと集まった。

「お! 咲耶サマ、馬子にも衣装ってヤツだな!」
「よ、よくお似合いです!」
「咲耶さま、おみ足ツヤツヤ!」

盛大な拍手と共に、“眷属”たちが口々に咲耶を持ち上げてくれるのが、逆にいたたまれない。

(いや~ッ。
ナニこのさらし者状態! 恥ずかしすぎるんですけどっ!)

思わず美穂の影に身を隠そうとしたが、小柄な彼女よりも縦にも横にも大きい咲耶が、隠れられるはずもない。

「あら、思ってたより良いじゃない。
そんな所で突っ立ってないで、コッチに来てハクによく見せてあげなさいよ」
「ほら、咲耶!」

どん、と、思いきり背中を美穂に押され足をもつれさせながらも、ようやく咲耶は赤い“神獣”と白い“神獣”の席へとたどり着く。

「……へ、変じゃない?」

自分よりも遙かに見目麗しい青年らに見上げられ、気恥ずかしさに熱くなる頬。
それをごまかすようにか細い声で尋ねると、じっと咲耶を見つめたまま和彰が口を開いた。

「変ではない」

きっぱりと抑揚なく告げた唇が、ゆるく微笑みを浮かべる。すっ……と、咲耶のほうへ伸ばされた和彰の手が、咲耶の手首をつかんだ。

「……可愛い」

引き寄せられたと同時に告げられた言葉の意味に、頭が追いつかない。

(かわ、可愛いって……! 茜さんの差し金? 絶対そうだよねっ……)

和彰の腕に囲われた状態で、ちらりと仰向けば、青みを帯びた黒い瞳が自分を映していた。

(でも──)

咲耶は頭ではなく心でその単語を繰り返す。『可愛い』は、愛しさがあふれた想いの言の葉だ。

「あ、ありがとう……」

精一杯の想いを返すと、咲耶を抱く和彰の腕にぎゅっと力がこもった。

「分かるわぁ、ハク。アンタも、ホントは咲耶を誰にも見せたくはないのよねぇ?
アタシも昔は、美穂を誰の目にも触れさせたくないって思ったものぉ~……実際に、香火彦に屋敷(かご)に閉じこめられるまではね」
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