神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
咲耶は、和彰の腕のなかから起き上がり茜を見やった。

ふっ……と、彼にしては自嘲的な笑みを浮かべ、手酌の酒を(あお)る。まるで、自らが願ったせいで美穂が不幸になったとでもいうように。

「茜さ──」
「ちょっと! お前ひとりでナニ呑んでるんだよ? あたしにも寄越せ!」

咲耶の呼びかけをさえぎり、遅れてやって来た美穂が茜の横にどすんと座りこむ。

「そりゃあ呑みたくもなるでしょうよ、アタシの可愛い仔猫ちゃんが、アタシの側にいないんだものぉ。
もう、さびしかったんだからあ!」

盃を差し出す手に応えながら、わざとらしいくらいの()ねた口調で言った茜が、美穂にしなだれかかった。

「寄りかかんな、重い!」と、むげにはねのけられる、毎度のことながら愛が報われない哀れな青年の姿に失笑しつつ、咲耶は内心、ホッと息をつく。

(なんだかんだ言って、美穂さんも茜さんを気遣ってるんだよね)

ただ、素直にあらわさないだけだろう。そして、それをお互いに解っているのだ。

「ところで──咲耶は呑まないの?」
「あ~、私、下戸なんだよね」
「とかなんとか言っちゃって、実は酒入ると人が変わったりするんじゃないの? 百合さんみたく」
「や、本当に私、あんまり呑めなくて……」
「──美穂。無理強いしちゃダメよ?」
「分かってるよ。ちょっと言ってみただけじゃん! ……つーか、ハクの視線が痛いしね」

茜にたしなめられ唇をとがらせた美穂が、咲耶の耳にささやく。

百合子にも言われたが、和彰はいったいどんな視線で自分を見ているのかと、心配になってしまう。

(……ただ見てるだけっぽいけど)

美穂との会話のなか、さりげなく冷たい美貌の青年を窺えば、いつも通りの無表情だ。
良いようにとれば、自分を気にかけてくれているということだろうと、咲耶は結論づける。

(……なんだ、もっと熱視線かと思った──っ!)

自分の思いつきに苦笑いを浮かべ盃を口にした咲耶は、そこでむせてしまう。
鼻に抜ける匂いと、のどを熱くする感覚は、久々のものだ。

「……っ、これっ……!」
「あれ? ホントにダメだった? ごめん!」
「…………美穂さん?」
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