神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
後方には、鶏よりもひと回りくらい大きな、黄褐色の鳥がいる。先ほど大騒ぎしていたのはこの鳥だろう。
闘十郎に叱られたあとは、嘘のように静かになったようだ。

「ああ、えと……はい、だいぶ。ごあいさつにも伺わずに、すみません」

雉草の言葉に反応したわけではないが、儀式直前に言われたことも思いだし、咲耶は恐縮して応えた。
闘十郎はそんな咲耶を快活に笑い飛ばす。

「なに、遊びに来いと誘うたは、わしのほうじゃがの。一向に来る気配がないゆえ、こうして参った。──ハクも、元気そうじゃの」

闘十郎の視線に振り返れば、少し離れた位置で、袿姿のハクコが軽く腕を組んで立っていた。

「……騒がしい。何用だ」

ふた言で済ますハクコの率直で不遜な態度に、聞いていた咲耶のほうが肝を冷やす。

「ちょっ……ハク! そんな言い方失礼でしょ!」
「ああ、構わぬよ、咲耶。ハクは誰に対してもこうじゃ。
──昼前になろうとするに、未だその姿(なり)でおるとはの。おぬしの嫁御は、おぬしに、いろんな変化をもたらしておるようじゃな」
「……椿、コクを客間に通せ。私に着替えを」

くるりと向きを変え、ハクコは肩ごしに言い捨てると、自分の部屋のほうへ歩いて行く。その背中に椿が応え、闘十郎を客間にうながした。

(なに、いまの)

ハクコに投げた闘十郎の最後の言葉は、からかうというには少し、複雑すぎる響きがあって。
咲耶は何やら、言いようのない居心地の悪さを感じた。
と、そこへ、冷ややかな声がかかった。

「──これから、外へ出られるか?」

音もなく、黒髪の美女、百合子が玄関に入ってきた。驚く咲耶には気にも留めず、先を続ける。

「お前にとって、悪い話ではない。私と出掛けることは、闘十郎がハクに伝えるはずだ。どうする?」

百合子の申し出に、一瞬ためらいはしたが、咲耶のほうでも百合子に訊いてみたいことがあったので、うなずいた。

「行きます」



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