神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
咲耶は、ハクコに対していだく想いを、痛烈に感じた。
胸の奥のほうをぎゅっとつかまれるような、愛しくてせつなくて、こそばゆいほど優しい気持ち。

「恋愛感情とは違う」と自分に言い聞かせるようにして、無意識のうちにハクコに対し、一線を引いてきた気がする。

しかし、この『想いの名前』など、本当はどうあってもいいのではないだろうか?
純粋な願いに応えるのは『単純な恋情』でなくとも、いいはずだ。

(だって、なんか、もう……っ……──)

いたたまれずに、咲耶はハクコの顔を引き寄せ、ハクコの唇に自らの唇を重ねる。
胸に宿る想いのすべてが伝わるように、くちづけた。

「……咲耶……」

唇を離した瞬間、吐息と共にささやかれ、恥ずかしさとは違うもので、咲耶の身体が熱くなる。倒れこむようにして、ハクコの身体に自らを預けた。

「ずっと……側にいるから。あなたに名前が伝えられるまでも──その先も」

背中にハクコの腕が回されて、強く引き寄せられる。咲耶の身体も心もハクコに近づいて、痛いほどに伝え合う、互いへの想い。

ややしばらく、そうしてぬくもりを共有したあと、ぽつりとハクコが言った。

「今宵はこのまま、人の姿のままで、お前と共寝をしたい。良いか?」

一瞬、ハクコの言葉を深読みし、
「それはさすがに心の準備が……」
と、言いかけた咲耶だが、すぐにその問いかけが艶っぽいものでないことを察した。

(……まぁ、まだ成長過程みたいだし)

茜の言葉を借りれば「性成熟してない」らしいので、どちらかといえば咲耶の先ほどの行為のほうが、道義に反するのかもしれない。

「それは全然、構わないけど……なんで、そんなことを訊くの?」

考えてみれば最初の晩からハクコは、わざわざ“神獣”の姿に戻り、咲耶と一緒に寝ていた。

咲耶はそれを、ハクコのほうの都合上そうしているのだとばかり思っていたのだが。
いまの訊き方は獣の姿で寝ることが、まるで咲耶の都合であったかのようにもとれる。

(確かに、最初の晩に関していえば、あの姿だったからこそ一緒に寝るのに抵抗なかったんだけどさ)

こういってはなんだが性成熟してない幼いハクコが、そういった咲耶の女心の機微を理解できていたとは思えなかった。
< 60 / 451 >

この作品をシェア

pagetop