神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
(ちょっ……これから寝るっていうのに、心臓がっ……!)

唇を奪われて、髪をなでられて。
「好き」と伝えたそばから行われるハクコの一連の行動に、咲耶は自分のなかの認識が、間違っていたような錯覚に陥った。

(「性成熟してない」って、ガセネタですか、茜さ~んッ!)

「──咲耶? 私はお前にされたようにお前に返したつもりだが……不快だったのか?」

ハクコの顔がくもって、咲耶はあわてて首を振る。

「ふ、不快じゃないわよ、全然。むしろ気持ちい──じゃなくて、いや、そうなんだけど、そうではなくて……。え? 返したって、なに?」

咲耶の混乱ぶりに、ハクコの瞳がとまどったように揺れる。

「……お前にされて『嬉しい』と感じたことは、お前に返すといいと師に教わった。駄目だったか?」
「だ、ダメじゃないけどっ……」

(愁月さん、なに教えてんのっ!? ……って、アレ? この場合、私が教えちゃったのか……!?)

一瞬、あらぬ疑いを愁月にかけたが──どうやら元凶は、咲耶本人だったようだ。

思えば、咲耶の『頬っぺにチュー』を、まじないだと信じて続けてるようなハクコである。
純粋な、汚れなき想いで、咲耶にされた「嬉しいこと」を返してくれていたのだ。
それなのに、こんなに動揺してしまっては、ハクコがまた変に誤解してしまうかもしれない。

「ごめんね。全然、ダメじゃないよ、ハク。……ええと、嬉しすぎて、その……ちょっと、びっくりしただけ」

言葉を選ぶ咲耶に、ふたたびハクコの顔に笑みが浮かぶ。そうか、と、相づちをうって、咲耶の身体を引き寄せた。

「人の身になると、こうしてお前を抱きしめることができる。やわらかくてあたたかいお前の身体は、とても心地よい」

(ぎゃーっ! だから、寝られないっての!)

心のうちで絶叫する咲耶をよそに、ハクコの【幼いゆえの暴走】は止まらない。咲耶の首筋に顔をうめて、呼吸する。

「……獣の身ほどではないが、お前の匂いも感じられる」
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