神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「えっ、ヤダ! 私ちゃんと、お風呂に入ってるよ!? そんなに臭う?」

──『こちら』に来て、初めての日。椿から、
「わたし供は普段、湯に浸かる習慣はないのですが、姫さま方のいた世界では日常だそうですね?」
と言われ、逆に椿たちはどうしているのかと問えば、
「着物に香を()()めますし、行水が一般的なんです。
けれども、ハク様はじめ虎さま方は、匂いにとても敏感で……香を嫌がられるのです。
ですから、その分、姫さま方は、日々の入浴が必要になると伺っております」
という、さらに逆の説明を受けた咲耶である。

匂いに敏感、などと言われては、きっちり毎日風呂に入り、一日の汚れを落とすようにしている。しかし洗髪に関しては、乾燥させるのがめんど…大変なので、三日に一度で済ませてしまっていた。

(髪!? 髪がクサいの!?)

思わずハクコの腕のなかから逃れ自分の髪を嗅いでみる。……咲耶に感じられるほどの匂いはないが、ハクコの嗅覚では違うのかもしれない。

「なぜ、私から離れていくのだ」
「だってハク、いま、臭うって言ったじゃん!」
「……すべての生き物は匂いを放つ。そして、お前の匂いは私にとって「良い匂い」なのだ。側で感じていたいのに、そんな風に離れられては意味がない」

不満そうに言いきって、ハクコは咲耶を抱き寄せる。

「……これで良い」

咲耶をのぞきこむハクコの瞳には無邪気さが宿っている。

(クサいって言われたんじゃないのは解ったけど、これはこれで問題が……)

向き合う形で横になっているハクコを、咲耶は複雑な心境で見返す。
咲耶を慕ってくれてはいるが、ハクコの寄せるそれは、愛玩動物が飼い主に対して抱くものと同じような気がした。

(これからずっと、こんな感じなのかなぁ?)

咲耶がハクコへ寄せる想いは、それと対になる要素が含まれているだけに、お互い様なのかもしれない。しかし──。

(これで良いような悪いような……物足りないような?)

いま現在はハクコが性的に未成熟ではあるが、この先、咲耶に対して欲情したりする日がきたら──。
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