神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~

《五》折りに触れてイロイロ教えてやるよ。

こちらの世界──“陽の元”での食事の回数は、朝と夕の一日二回だった。

もともと咲耶は、朝起きて(といっても午前十時すぎ)朝・昼食を摂り、仕事を終えて(だいたい午後九時頃)晩ご飯という生活をしていたため、食事の回数に特に不満はなかった。

(むしろ健康的な食生活なんだよね)

膳の上には、ひとつの椀に汁物、もうひとつの椀に白米。いくつもの小皿には、野菜の煮物や和え物、朝は焼き魚、夜は煮魚……と、並ぶ。
いま目の前にあるのは、咲耶の知らない川魚の煮付けだ。

「……そういえば、ずっと気になってたんだけど、犬朗たちの食事って、どうなってるの?」

咲耶の部屋には椿の他に、ハクコと咲耶の“眷属”のうち、古株の犬貴を抜かして全員がそろっていた。

「ああ、そのことか。咲耶サマが考えてるような『食事』なんてモンは、ねぇんだよ、俺らには」

部屋の隅にいた犬朗の言葉に、椿よりやや咲耶から離れた位置にいるたぬ吉が、タヌキの耳を揺らし小刻みにうなずく。

「……じゃ、転々は、特別?」

咲耶のすぐ側で、かつおの削り節のかかった飯を食らうキジトラの猫を見る。
にゃあう、という満足そうな鳴き声が返ってきた。その反応に、隻眼の虎毛犬が噴きだす。

「……まぁ、そうだな。厳密に言やぁ、そいつは【化けモン】になってからの日が浅いんだろ。だから、マトモだった頃の食いモンに、目がねぇんだろうさ」

犬朗の物言いに、先日、赤虎・茜から聞いたことを思いだす。

「“眷属”っていうのは、もとは『物ノ怪』だったものを、アタシ達“主”の従順な配下にしたものをいうの。
だけど、只人からすれば、自分たちに害を為すモノとの区別がつかないから……恐怖や嫌悪の対象ではあるわね」

以前、犬貴が咲耶の“影”に入りその身を隠そうとしたのには、そういう理由があったのだと納得させられた。

「本来の俺らは、ヒトの生命力を喰らって糧にする。けど、“眷属”になったいまは、ハクの旦那から生命力を【分けてもらってる】……ってぇトコかな?」
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