神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「まず、“主”と、目・耳・口を同化する。これは、“眷属”誰しももてる力だ。つまり、初級。
で、次に、“主”との意思の疎通。ここが分かれ道で、“主”の考えっつうか思考ってぇの?
それが解っても反応ができない状態。いまのテンテンだな。
さらに、意思の疎通ができて反応もできる。これが中級。
タンタンの力量は、こんくらいかな?」

ちなみに、犬朗のいうタンタンとは、たぬ吉のことだ。
じゃあ、犬朗はケンケンだろうという咲耶の揶揄は、
「すげぇな、咲耶サマ。そーゆう名付け由来だったんだ」
という、本気か冗談か、解らない反応が返ってきてしまった。

「少し上をいくと、“主”の身体を自由に操って、自分のもののように動かせることが可能になる。これが上級。
俺は、ま、ここいらで勘弁ってトコだけど、犬貴のヤツは、さらにこの上をいく」

せわしなく鳴く虫の声の合間をぬうように、犬朗のかすれた声音が辺りに響く。
眼帯に覆われてない眼が、咲耶を捕えた。

「“主”の身体のまま、自分のもつ“術”が遣いこなせる。
あいつは確か、風を遣うのが得意だったはずだから、その系統の“術”な? かなり高度な“影”の能力になるぜ」
「へぇ、そうなんだ……」

感心しながら咲耶は、犬貴が“影”に入った時のことを思いだす。
親子のあいだを裂くように吹き抜けた、強い風。いま思えばあれは、犬貴の力によって引き起こされたものだろう。

「俺の能力は……って、咲耶サマに披露してやりたいのはヤマヤマだけどな。そんなモン遣わない事態に留めるのが、一番ってヤツだ」

犬朗の言葉に、咲耶は思わず眉を上げる。なんだか意外な台詞を聞いたようで、驚いたのだ。
すかさず犬朗の前足が上がり、器用に指が一本、立てられた。

「あっ、俺のことを、好戦的で自己顕示欲が強いヤツだって、勘違いしてんな? ……ま、初対面で調子ぶっこいて黒いのとやり合おうとしたのは事実だけどな」

黒いの、というのは、犬貴のことらしい。
“眷属”となる前の呼び名だろうか? さしずめ犬朗は、『赤いの』だろう。
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