神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
実際、うさん臭げに見られた咲耶も、こうして無事“大神社”のなかに入れたのだから、着衣の色が身分証変わりなのだろう。

『咲耶サマ。大丈夫か?
……意外に面倒なことになったな』

足もとから伝わってくる犬朗の呼びかけは一方的な声(・・・・・)でしかない。
咲耶は、半歩先を行く小太りな“神官”から少し離れたのち「大丈夫」と、小声で返した。

衛士からの伝達を受け、咲耶を迎えに来た“神官”の口からまずでたのは「“眷属”をお連れですかな?」という、気取った問いかけだった。

上から目線の嫌な感じを受けた咲耶が言葉をにごすと、男は肯定に受けとったらしく、
「では、こちらの数珠(じゅず)を手にはめてから、鳥居をくぐりなされ」
と、水晶と思わしき数珠を手渡してきた。

従わなければ、なかへとは入れなさそうな気配に、咲耶は仕方なしに手首へ通した。
とたん、視界が急激に、暗く狭くなったのだった。


『テンテンの気配が感じられねーな。
……それ、“眷属”の能力(ちから)を封じるモンみてぇだな。“影”じゃなくて“隠形”にしといて正解だったぜ』
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