神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
実は、鳥居を前にした犬朗が心配したのは、只人の前に姿を見せることだった。

咲耶も、茜から聞いていた彼らに対する反応に、無用な差別的態度をとられるのが嫌だったので、犬朗には姿を隠すよううながした。

そして、犬朗が選んだのは“主”との同化ではなく、他者の目から隠れての同行──地中を潜って行く“隠形”だった。

同化していた転々の“影”の能力は封じられてしまったが、咲耶の足の下──地脈を通り行く犬朗は、能力を封じられはしなかった。

川のせせらぎが聞こえ、目をこらすと、前方に橋が見えた。

転々の『眼』は失ってしまったが“大神社”内は所々に石灯籠(いしどうろう)があり、また、“神官”の手にも燭台がある。
遠くまでは見渡せないが、歩くのに支障はなかった。

「──どうかしましたかな?」

いぶかしげに小太り“神官”に振り返られ、咲耶はあわててあとを追う。
不審に思われないように、口を開いた。

「あの、“神官”ってことは、愁月さんをご存じですよね? どんな方なんですか?」
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