神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
当たり障りのない話題をとの咲耶の狙いは、外れなかった。
男は、得意げに鼻を鳴らした。

「ふむ、賀茂愁月殿は、我ら“神官”の(おさ)で“国司”尊臣様の覚えもめでたい出世頭ですな」
「そうなんですか。すごい方なんですね」

微笑みながらうなずき返すと、調子にのった自慢話が始まった。
咲耶は、適当に相づちを返す。

もとの世界にいた時の接客技術がこういう時に役立つ。
逆らわず、話したいだけ話させてやれば、こういう輩は満足するのだ。

ふいに咲耶の耳に、鼓の音が空間を震わせるのと、笛の高い音色が風を渡って届いた。
雅楽、というものだろうか? 琴の弦の響きも伝わってくる。


「これ……なんていう曲ですか?」
「管弦楽の調べ『月下(げっか)神現(しんげん)の序』ですな」

整えられたあごひげに手をやりながら、小太り“神官”が答える。
ちら、と、意味ありげに咲耶を見やった。
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