神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
咲耶はハクコの姿に、“契りの儀”に際し、自分の前に現れた彼を思いだした。
だが、懐かしいと思うよりも、居心地が悪いという感覚が、咲耶のなかで芽生える。

(これ、って……)

動悸(どうき)とめまいが、瞬間的に咲耶を襲った。血液のめぐりが、急激に悪くなる。

舞殿にある階段を、ハクコが目の前で上がって行く。咲耶の目に映るハクコの顔には生気がなかった。
感情の起伏が少ないなどという、いつもの表情とは明らかに違う。

調子をとるように打ち鳴らされた鼓と、耳障りなほどに響く(しょう)の音が、途絶えた。

舞殿の頂きに、ハクコが立つ。
頼りなげだったはずの月光が、嘘のように明るく、ハクコの全身を照らしていた。

(なっ……)

咲耶の眼に飛びこんできたもの。
長い髪と見える角度によって隠されていたそれは──首枷(くびかせ)と鎖、だった。
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