神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「……この騒ぎの発端は、私です。ですから、責任は彼らの“主”である私が、すべて負います。
どうか、それでご容赦ください」

──自分で()いた種は自分で刈る。
それ以外の選択肢は、その時の咲耶には、思い浮かばなかった。





(寒い……それに、お腹減った……)

ひざを抱え、咲耶はぼんやりと目の前の鉄格子を見つめた。

ぴしゃん、と、どこかで水音がする。

咲耶が座るのは、岩肌でできた牢獄の一室。
……と言っても、洞窟(どうくつ)内の小さな空間に鉄の柵を取り付けただけのものであろうが、非力な咲耶では壊せるはずもなかった。

自ら捕らえられたのち、咲耶は桶のなかに押し込められ、気づいた時は、この岩屋の牢に入れられていたのだ。

愁月の言葉に従おうとする咲耶に犬朗が抗いかけたが、咲耶は“主命”でもってそれを止めた。

舞殿を立ち去る際、どのような“(まじない)”かは知れないが、転々も咲耶の“影”から切り離されてしまった。

(さっき灯りを替えに来てたから……あれから一週間くらいは経ったのかな?)

鉄格子の外に置かれた灯火が、外界から遮断された咲耶が時間経過を知る唯一の手段だった。

咲耶を監視している役人風情の男らが、交替制で灯りをくべている。
その間隔から察するに、二人が交互に来て昼夜二回ずつとし、ほぼ一日と考えられた。

(私の身体……本当に変わっちゃったんだな……)

こんなふうに飲まず食わずにいて、一週間も生きていられるなど、普通ではあり得ないことだ。
ちょっと気力がないだけで身体も思考もいつもと変わらずにいられる自分に、咲耶は改めて“神籍(しんせき)”に入ったのだと実感させられた。

(ハク……大丈夫だよね……?)

悔しいが、ハクコは愁月の『出世のための道具』にされているのだろうと、咲耶は考えた。
それならば、ハクコ自身に危害が加えられることはないはずだ。
ただ、ハクコの様子が尋常ではなかったのが気がかりではあった。


(あの愁月って人……なんかイロイロおかしな“呪”が遣えそうだし)
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